漫画家の水島新司さんが81歳で引退を発表した。63年間の執筆生活だった。多くの野球漫画の傑作を残し、野球好きでなくとも個性的なキャラクターたちに魅了された人は多いに違いない。個人的に一番思い入れがあるのは「あぶさん」▼酒癖の悪さで社会人野球をクビになった景浦安武は南海ホークスに拾ってもらう。初期は飲んべえ代打として活躍した。打席に入る前にはバットに向かって酒しぶき。普段はだらしないものの、やる時はやるという姿が格好よかった▼その後はホークスの不動の四番打者として数々の記録を残す。漫画の世界と片付けるのは簡単だが、実際のプロ野球を舞台として読者を感情移入させるストーリーはさすがといえよう▼水島さんは女子プロ野球選手も描いた。「野球狂の詩」に登場する東京メッツのアンダースロー水原勇気。1970年代当時、女性は支配下選手として認められていなかった。阪神打線のピッチャー返しに苦しみながらも味方の守備に助けられて打球の恐怖を克服していく試合が記憶に残っている▼あぶさんは62歳まで現役を続けた。現実の世界でも現役にこだわり続けるアスリートはたくさんいる。代表格は53歳のキングカズこと三浦知良選手。そのストイックぶりは有名で、彼なら還暦になってもピッチを走っているかもしれない。(20・12・4)

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