俳人の長谷川櫂さんの『国民的俳句百選』によると、俳句と聞いて誰もが「ああ、あれですね」と思い浮かべる句の筆頭は、もちろん〈古池や蛙飛びこむ水のおと〉(芭蕉)だという。そして次に子規の〈柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺〉が来ると▼三番目に来るのは、〈なの花や…〉、〈痩蛙…〉、〈降る雪や…〉などだろうとしている。俳句への感じ方は人それぞれだから、長谷川さんの選に異議なし!の方もいれば、これ以外の句を挙げたい人もいるはずだ▼さて、柿に戻る。いま一年中でいちばん夕焼けが美しい時期ではないだろうか。日本人は古来、その夕映えの色をさまざまに表現してきた。茜色、薔薇色、朱鷺色、橙色、銅色などなど。個人的には柿色という言葉がいちばんしっくり来る。さらに言えば照柿だ。ちなみに照柿色は、CMYKでいうと、M58、Y65、CとKは0らしい▼柿の枝に(当然だが)柿色の実がいくつもなって、それが夕日をあびて輝かしくもあり神々しくも照り映える照柿色。柿の実の色と空の柿色が響き合う中に細枝が黒々と罅を入れたようなシルエットを描く。この景色に初めて心震わせたのは、平泉の中尊寺近くを歩いていた高校生のころだった。柿みれば鐘が鳴るなり中尊寺、だったわけだが、そんな昭和の時代も遠くなりにけり、である。(21・11・22)

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