ヌー(オグロヌー)は、水や草を求めてアフリカの草原を大移動する。道中、これ幸いと待ち受ける肉食獣に狙われ、決死の集団渡河では多くが溺死する。それでも毎年、130万頭ともいわれる大群で移動することをやめない。年間の移動距離は約3000キロに及ぶ▼大移動を強いられるのは、東アフリカのサバンナに雨期と乾期があるからだ。たっぷりと雨が降り豊富な食べ物と飲み水がある快適な場所も、やがて来る乾期には枯れてしまう。雨が降る場所を自分でコントロールすることはできないから、自分が移動する。大自然の潮流に合わせ生き抜く▼全滅したくなければ、危険があっても移動する。次に雨が降り、草が育つ場所はどこなのか。情報を得て分析し、決断しているかのようだ。衰退していく市場から離脱し、成長市場にビジネスのターゲットを移していく企業の姿と重なる。ただし、ヌーの大群にはリーダーがいないとされ、どのように決断しているのか本当はよく分かっていない▼実はヌーの大移動は、東アフリカのサバンナの生態系を根底から支えている。肉食獣だけでなく、植物も微生物も昆虫も草食動物も、食物連鎖を通じてその恩恵を受けている。大自然のバランスや掟から外れてしまった人間が、ヌーの大移動を阻むという愚だけは避けたいものだ。(22・5・31)

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