田辺三菱製薬は、カナダのワクチン事業子会社メディカゴが開発している新型コロナウイルスワクチンについて、今夏にも日本での臨床試験開始を決める。北米などで行っている大規模な臨床試験の速報結果が6月ごろに出る見込みで、この結果などを見て日本での開発計画を決める。先行する北米では正式な申請前から段階的に試験データを提出し、年内の早期承認と供給開始を目指す。田辺三菱製薬の上野裕明社長が、本紙取材で明らかにした。

 メディカゴは3月からコロナワクチンの第2/3相臨床試験(P2/3)プログラムのP3パートを海外で行っている。北米や英国・欧州、中南米など10カ国で最大3万例を登録する予定。21日間隔で2回接種し、発症予防効果などの有効性と安全性を評価する。英グラクソ・スミスクライン(GSK)が提供するアジュバント(免疫増強剤)と併用して接種する。

 上野社長によると、6、7月ごろに有効性の速報データがまとまる予定。良好な結果が出た場合、7~9月期に各国で緊急使用許可(EUA)などを申請し、供給開始を目指す。本拠地のカナダでは、正式な申請前から試験のデータを段階的に提出して審査を進める「ローリング・サブミッション(段階的提出)」による承認審査が始まった。非臨床試験、品質試験など既に解析されたデータを順次提出していき、P3の速報データが揃い次第、速やかに承認審査を完了させる制度だ。米国でも同様のローリング審査を利用することで米国食品医薬品局(FDA)と合意ずみという。同国では優先審査されるファスト・トラック指定も受けている。

 日本は、少数の日本人で安全性や抗体価(免疫反応)を確かめる国内治験(P1/2)を行い、海外P3データと合わせて申請する方法を検討している。先行する米ファイザーや英アストラゼネカ、米モデルナ製もこの方法で申請された。まず海外データで承認申請して審査を進め、国内データを最後に提出して承認が判断される仕組みだ。上野社長は、「(外資各社と同様の)正攻法で開発を進める。海外のP3と日本のP1/2を行って合わせる方向で考えている」と話した。海外P3の速報が出る6月前後に、国内P1/2の計画を当局と相談して決めると見られる。

 日本向けの製造も北米で行う予定。メディカゴのワクチンは、たばこ属の葉を使ってワクチンの有効成分(ウイルス様粒子、VLP)を製造する。植物由来のVLPワクチンは世界初で、短期間で技術移転するのは難しいことから、既存の自社拠点から各国に供給する。本拠地の加ケベックと米ノースカロライナ州で工場を拡張中で、24年ごろに年産10億回分の製造が可能になるという。今年は8000万回分以上の供給能力を目指しており、カナダには最大7600万回分を今年から供給する契約を政府と結んでいる。

 変異株に対する有効性は、非臨床試験として研究中という。開発中のワクチンでは効果不十分と判断した場合は、変異株に対応する新製剤の開発も検討する。

 コロナ治療薬の開発も進める。コロナ回復者由来の中和抗体を応用した治療薬だ。慶応義塾大学などの研究チームが同定した中和抗体11種類を引き継ぎ、開発を進めるリード抗体を検討中。変異株に対する有効性も評価しながら、複数の抗体を組み合わせた「カクテル療法」にする可能性も検討する。上野社長は、「ワクチンと治療薬のセットで持っていることがパンデミックでは重要だ」と話している。

 田辺三菱製薬は21年度からの中期経営計画で、25年度までにワクチン事業売上高1000億円超を目指す目標を掲げた。直近(19年度)の売上高約390億円から約2・5倍伸ばすことになり、メディカゴのコロナワクチンなどの貢献が期待される。同社由来のVLPワクチンでは、北米で21年中にコロナワクチン、24年に季節性インフルエンザワクチンの上市を目指す。日本では阪大微生物病研究会(阪大微研)と開発している小児の5種混合ワクチンを23年以降に上市する計画だ。阪大微研とは研究段階からの提携を強化する方針。生産機能の合弁会社BIKENでは、従来の鶏卵培養型ワクチンに続く新たな製造技術も研究しているという。

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