新型コロナウイルスの感染拡大により、3カ月以上も品不足が続く不織布マスク。医療機関でも切実な問題となっている。政府は全世帯に2枚のガーゼマスクを配布する方針を打ち出す一方、シャープやトヨタ自動車など異業種からのマスク生産も目立ち始めた。動機はさまざまだが、ひっ迫した需要に対応する各社の動向を探った。

 社会にインパクトを与えたのはシャープのマスク参入だろう。政府への納入を目的に、3月から三重県内の工場で1日15万枚を生産。製造ラインを増設し同50万枚へ高める計画もある。生産にあたっては経済産業省の助成金やマスク生産のノウハウを持つ親会社・鴻海精密工業からの技術指導、液晶ディスプレイ製造で保有するクリーンルームを活用。資材調達は国からのアドバイスも受けたようだ。消費者や医療関係者からの問い合わせも多く、今後は自社ECサイトでの販売も予定する。

 シャープのような月産1000万枚規模の生産を目指す異業種メーカーで気になるのは、新型コロナ収束後も生産するか。この点について同社は「事業として継続するかは現状分からない。ただ、社長(戴正呉氏)は健康分野を強化する考えもある」と話すにとどめた。海外でのマスク生産も検討しているようだ。

 トヨタ自動車は顔全体を覆う「フェイスシールド」を愛知県内の工場で生産し、医療機関に供給する。子会社デンソーも自社などで使う不織布マスクを4月から生産。軌道に乗れば1日10万枚の量産も可能という。

 日清紡ホールディングスでは、自社素材を使用し開発した形態安定立体マスクの一般販売を始めた。傘下のシャツ小売店の一部で取り扱う。販売予定数量は月2万枚を計画する。自社グループのショップ店員が着用することを目的に開発した。マスク不足を受け、店頭での販売に踏み切った。表地には形態安定加工を施したシャツ生地、裏地にはガーゼ生地など、自社グループで手掛ける素材を採用。耳当て部分には日清紡テキスタイル製の熱可塑性ポリウレタン「モビロンテープ」を用い、シャツの縫製拠点で一貫して製造する。日清紡は「生産体制が整っておらず、一部の店舗で少量の販売」にとどまるとしているが、今月中旬以降からは「販売数量も増やしていく予定」という。大都市圏を優先し、取り扱い店舗を順次拡大するとしている。

 ヘリオス テクノ ホールディング(TH)傘下のフェニックス電機も4月下旬から不織布マスクを生産し、販売に乗り出す。将来的には1日20万枚を生産する方針だ。変わったところではオンラインサービス大手DMM.com子会社が島精機製作所のマスク用編成データを用い、3Dプリンターでニット製マスクを生産、販売した。洗って繰り返し使えるのはメリットだが、ニットマスク単体でウイルス・花粉をカットする機能はなくフィルターの使用を推奨している。

主要各社はフル稼働

 異業種の動きが目立つ一方、主要マスクメーカーは緊急事態宣言後も24時間対応で増産を続けている。最大手ユニ・チャームは、配置転換で人員も増やし月産約1億枚を製造。同社によると足元で資材の目立った高騰はないという。川上では三井化学子会社のサンレックス工業がマスクなど産業用メルトブローン不織布の製造能力を従来比1・5倍に高めている。

 興和は政府の要請でガーゼマスクの生産を開始。海外に展開する繊維事業のリソースを生かし4月には5000万枚規模の生産を目指す。従来販売する不織布マスクも月産1200万枚体制に増強したうえ、今後は同2700万枚へ高める計画だ。

 医療向けの「N95」や家庭用を展開する日本バイリーンも従来比1・5倍規模の不織布マスクの生産を継続する。中小メーカーなども設備増強の動きはあるものの、人手不足に陥っているケースは多いようだ。

 政府によると4月はマスク供給量が7億枚超となる見込み。医療分野などに優先するため店頭での品不足は続きそうだ。一部ドラッグストアでは朝の開店時にあえてマスクを並べない取り組みを始めた。マスクは効果以前に、とくに都市部では外出時のマナーとして必需品の様相だ。持っていない、ストックが少ない人へ届けるためにも販売側の工夫は重要だろう。

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