いまも現役の某化学会社の会長。世界の錚々たる化学企業のなかで時価総額上位というポジションを築き上げ、経営の神様と呼ばれて久しい。その会長に、どうしたらそのような経営ができるのか尋ねたことがある。答えは「睡眠」だった。たっぷり寝れば良い考えも浮かんできますよ、と涼しく笑った顔が脳裏に焼き付いている▼実際に経営に反映されたのは「良い考え」の方であり、本当の答えは睡眠ではないのかも知れない。しかし、睡眠不足では逆境を跳ね返すような飛び切りの良い考えも浮かんでこない可能性が高い。まずは心身共に健康でなければ、最高の経営をするのは難しいと言いたかったのだろう▼さてここ数年、経営指標としてROIC(投下資本利益率)が流行しており、ROIC(ロイック)経営が花盛りである。企業全体や事業ごとのROICが資本コスト(WACC)を大きく上回っていると投資家が高く評価してくれるので、株価や時価総額、すなわち企業の価値が向上する。従って経営者はROICを向上させる良い考えについて、頭をひねってきた▼ところがこのコロナ禍である。ROIC向上はさておき、今年度の利益確保さえ不透明な情勢となってきた。こんなときは仕方ないと開き直り、心身の健康増進に励む方が良いのかも知れない。(20・8・25)

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