経済産業省は経済安全保障の強化に向け、ワクチンをはじめとするバイオ医薬品の開発・生産支援に乗り出す。新型コロナワクチンの国内開発に出遅れ、国内接種ワクチンを輸入に頼らざるを得ない状況を踏まえ、次のパンデミックに備えるためにも、従来にない大規模での予算確保を目指す。ワクチン製造拠点整備事業と、国内創薬シーズを実用化に結びつけるための創薬ベンチャー育成事業にそれぞれ大型の基金を造成することを視野に入れている。今月末の衆議院選挙後に編成する2021年度補正予算案に盛り込むことを検討している。

 政府が今年6月に閣議決定した「ワクチン開発・生産体制強化戦略」の一環として取り組む。

 「ワクチン製造拠点整備事業」では、平時には企業ニーズに応じたバイオ医薬品を製造し、有事にワクチン製造へと切り替えられるデュアルユース設備の新設などを支援する。具体的には、平時には、メッセンジャーRNA(mRNA)がんワクチン、遺伝子治療薬、抗体医薬品などを製造し、有事には各モダリティのパンデミックワクチンの製造に切り替えることを想定。平時のバイオ医薬品製造で収益を上げることで設備や人材を維持しつつ、有事の際のパンデミックワクチン製造予備力として活用していく考え。同事業を通じ、mRNA医薬品をはじめとする国内外の開発案件を受託製造できるバイオCDMO(医薬品製造開発受託)企業の育成につなげていきたい考え。

 また、コロナ禍では、ワクチン製造向け部材・消耗品の供給ひっ迫も問題となった。とくにシングルユースバッグなど培養タンク周辺部材は欧米企業の寡占状態にあり、有事の際は国内供給が途切れる可能性もある。そこで同事業を活用し、国産品への切り替えが難しい部材を手がける欧米企業の生産拠点を国内誘致することも検討。ワクチン製造のためのサプライチェーンを構築していく方針だ。

 「創薬ベンチャー育成事業」では、国内創薬ベンチャーがPOC(創薬概念実証)を取得するまでに必要となる数十億円規模の開発費用を補助し、実用化を支援する。具体的には、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の研究開発型スタートアップ(STS)事業のように、創薬分野に特化したハンズオン支援を手がけるベンチャーキャピタル(VC)を認定。認定VCが出資する際の倍額を補助する仕組み。認定VCには製薬企業への導出支援や、経営人材のスカウト機能などの実績・体制を求める。認定VCの目利き力やハンズオン能力を生かし、優良ベンチャーを発掘・育成することで創薬ベンチャーエコシステムの構築を目指す。mRNAワクチンを手がける米モデルナも米国政府から150億円以上の補助金を受けて実用化に取り組んできた経緯がある。今後、日本もパンデミックワクチン・治療薬の開発で世界に後れを取らないように、創薬ベンチャーに大型資金を供給できる道筋を整えていく。

 「ワクチン製造拠点整備事業」「創薬ベンチャー育成事業」とも、5~10年間の大型基金事業にすることを想定。基金の規模感は過去に厚生労働省が手がけたワクチン生産体制等緊急整備事業などを参考にしていく。

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