週末の夜、東の空に浮かぶ月はとても美しかった。夜空を支配するように煌々と照るその満月を見れば、たとえ俳人や哲学者でなくとも、なにがしかの思いが頭をよぎる▼日本人が昔から愛してきた風景に花(桜)、月、紅葉、富士山などがある。個人的に言えば、桜、紅葉、富士山については両手を挙げて賛成である。しかし、月についてはそれほどピンと来ないな、というのが実感だった。子供の頃よく見たナンセンス系のテレビアニメで登場する月は、いつも風呂屋の煙突とのセットであり、むしろ滑稽な風景であった▼しかし、今回ばかりは感動した。月とはこれほど美しいものだったのか。今さらながら気が付かされたその理由が、人間活動の低下により空気が澄んでいるためだったとすれば、なにやら複雑な心境になる。そういえば、大気汚染で有名な隣の大国では、石炭火力が停止し意図せず青空が戻ったという。美しいと感じた後に、そんな思いが頭をよぎった。同じことを考えた人も多かったのでは▼世界では、コロナ禍で疲弊した経済を立て直そうとする試みが急ピッチで動き始めている。ある意味、当然のことである。収入を絶たれた人は、容易には生きて行けないからだ。青空や美しい月と経済とをいかに両立するのか。そう考える余裕が早期に生まれることを願う。(20・5・12)

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