ある川で子羊が水を飲んでいると、狼がそれを見つけて「俺の飲む水を汚すな」と怒鳴る。子羊は「汚していません。なぜなら私は川下にいますから」と答える▼狼は怒って「お前は去年も俺に嘘を言ったな」と言う。すると子羊は「嘘を言うはずがありません。私は今年生まれたばかりです」と言い返す。すると狼は更に怒って「お前でなければお前の兄弟が俺に嘘を言ったのだ」と難癖をつけると、子羊は「私に兄弟はいません」と答えた▼暴君は常に横暴な振る舞いをする口実を見つけようとし、公正な者の理に耳を傾けようとしない。それは昔話だけでなく、ある国では国民の自由を奪ったり、クーデターで政権を転覆した軍が居座り、抗議する国民に銃を発砲したり、現代でもそうした事例は枚挙に暇がない。しかし、そうした暴君や圧政は長くは続かないことを歴史は証明している。驕れる者久しからず▼長い年月をかけ人類が手に入れた自由や人権は極めて貴重だ。これらは普遍の価値であり、守り続ける必要がある。だが時代は大きな転換期。ともすると、大衆や世論は苦しみから逃れたいがため、易きに流れることもある。しかし、いったん屈したとしても、普遍の価値を取り戻そうとする火を消してはならない。いずれ取り戻せる日が来ると信じて。(21・6・28)

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