物事にはさまざまな見方がある。これが正しいと思っても、その反対の立場から考えてみると景色が変わって見えたりする。だから、全く反対の意味のことわざや金言があったりする。「君子危うきに近寄らず」と「虎穴に入らずんば虎児を得ず」はその典型だろう▼個人的に考えさせられるのは、「三人寄れば文殊の知恵」と「船頭多くして船山に登る」である。何か物事を決めるのに、多くの人の意見を聞くと尖った意見が消され、かえって正しい結論が得られないことがある。そのような状態を「集団浅慮」とも言う▼英北部のグラスゴーで開催されていたCOP26が閉幕した。石炭を巡り、欧州などの先進国と発展途上国の主張が対立し、「段階的廃止」という文言が「段階的削減」という表現に書き換えられたという。先進国と発展途上国、高齢者と若者、持てる者と持たざる者。立場がかわれば見方も変わり、「正しいこと」も違ってくる▼国際社会でその存在感がめっきり小さくなったわが日本。エネルギー問題も少子高齢化問題も将来の不透明さが増している。こうした状況で、君子を決め込む手はない。虎児を得るための文殊の知恵を導き出すべく、船頭たちが自由に意見をぶつけ合う局面である。国会議員とか官僚とか民間とか、立場に拘っている場合ではない。(21・11・16)

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