花王は16日、北里大学などとの共同研究で、動物モデルにVHH抗体を経鼻投与することで、肺における新型コロナウイルスの増殖を抑制したと発表した。新型コロナ感染症治療法の選択肢となる可能性がある。研究成果の社会実装に向けた動きは、すでに日本医療研究開発機構(AMED)のプロジェクトで進めており、3年後をめどに臨床試験を開始予定だ。また時期は明らかにしていないが、花王はAMEDの研究成果などを生かし新型コロナ検査薬への応用も視野に入れている。

 VHH抗体は、ラクダ科動物由来の抗体。一般的な抗体と比較し10分の1の大きさで、高い安定性や微生物による低コストが可能なことから近年注目を集めている。花王、北里大、埼玉大学発のスタートアップ、イプシロン・モレキュラー・エンジニアリング(EME、さいたま市桜区)の3者は、20年に新型コロナウイルスに対して感染抑制能を有するVHH抗体の取得に成功していた。

 今回の研究成果は、慶応大学、自然科学研究機構とも共同し、ハムスターモデルにVHH抗体を経鼻投与することで、肺におけるウイルス増殖を抑制できることを確認した。新型コロナウイルススパイクタンパク質とVHH抗体の結合様式をクライオ電子顕微鏡による解析で明らかにした。

 共同研究グループは、新型コロナに感染させたシリアンハムスターを対象として、独立した4グループのVHH抗体経鼻投与試験を設定し、体重変動と肺におけるウイルス量の比較を行なった。

 実験の結果、VHH抗体を投与しなかったグループのみ体重の減少が確認された。新型コロナウイルスに感染したハムスターは体重減少の症状があることが知られており、VHH抗体投与グループは新型コロナの感染によって引き起こされる症状を緩和したと考えられる。

 肺でのウイルス量も測定したところ、VHH抗体を投与しなかったグループと比較して、VHH抗体を投与したグループではウイルス量が少ないことを確認。VHH抗体による新型コロナウイルスの増殖抑制効果により体重減少の抑制につながったと示唆される。

 16日、研究成果に関するオンライン会見があり、北里大の片山和彦教授は、「世界的にみると新型コロナとの付き合いは長くなると予想する。安全性が高く、気軽に使えるような抗ウイルス薬は必要となる」と話す。

 花王安全性科学研究所ウイルス制御プロジェクトの森本拓也プロジェクトリーダーは、「現時点で詳細は話せないが、研究成果を検査薬として活用していくこともAMEDプロジェクトで進めていければ」と語った。

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