あるところに見すぼらしい王様がいた。家来は良い服を作るという噂の仕立屋を呼ぶ。仕立屋はバカには見えない服と言い、バカを認めたくない王様や家来は「良い服だ」と褒め、下着姿でパレードする。民衆も最初は褒め称えるが、一人の子どもが「王様は裸だ」と叫び、民衆も口々に言い始めると、王様と家来は恥ずかしくなり城に帰った▼アンデルセン童話「裸の王様」の原作は14世紀に作られたらしいが、現代にも裸の王様はいる。ある南国のその王様は資産4兆円以上と世界一リッチなことをいいことに、贅を極めた生活を送る。父親の前国王が質素な生活を送り、国民から絶大な尊敬を集めたのとは対照的に悪評が後を絶たない▼その国では王様や王室の悪口を言うだけで逮捕される。しかし国民の不満はいよいよ限界に達し、前代未聞の国王・王室批判を含めデモを繰り広げている。タブーを恐れず「王様は裸だ」と叫ぶのは次代を担う若者たちだ▼童話「裸の王様」は、権力者は謙虚であることが肝要で、周囲の声に真摯に耳を傾ける必要性を説いている。世の中の真理は、地位や名誉と無関係だからだ。そして権力者を取り巻く家来や民衆も同調圧力に屈せず、事実から目をそらさず正直でなければならないことも示唆している。国や組織がサステナブルである条件だ。(20・11・2)

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