「ご当地ソング」という呼び方は、やや商業的色彩を帯びているようにも感じられるが、地方の自然や景物を純粋に叙情的に歌った名曲は数々ある。調べてみると、ご当地ソングなる名前は、美川憲一さんの『柳ヶ瀬ブルース』が評判になり始めた頃、発売元のクラウンレコードの宣伝担当者が使い出して広まったのだとか▼さとう宗幸さんの『青葉城恋歌』は、美しい声と日本語の美しい発音で指折りの名曲と言って異論は出ないだろう。では、「手仕事屋きち兵衛」という歌手の『安曇野』を聴いたことがある人はどれくらいいるだろうか。鬱屈しがちなこの数カ月、この歌を聴いてどれほど慰められたことか▼さとう宗幸さんに勝るとも劣らない美声と美しい発音が信州安曇野の自然を歌いあげる。歌唱もさることながら、若山牧水の短歌のような歌詞が心に響く。安曇野の四季を春から順番に描いていくが、たとえば夏はこうである。「沸き立つ雲を焦がして 日射しが降り注ぐ 隠れた木立の中に 激しい蟬時雨 木漏れ日浴びた体に 涼風吹けば 想わず眼を閉じている 夏の日安曇野」▼安曇野に行きたいと無性に思う。やがて来る夏、蟬時雨に包まれ木漏れ日を浴びながら安曇野の木立でしばし目を閉じ瞑想する…。彼の地に行ける日はそう遠からずやってきそうである。(20・5・27)

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