四十代のころ、初めて処方された消化器系潰瘍の薬がエーザイの「パリエット」だった。エーザイといえばそのほかに、認知症薬「アリセプト」が有名だが、ここにさらに画期的新薬が加わる。バイオジェンと共同開発したアルツハイマー病(AD)治療薬「アデュカヌマブ」だ▼ADの病理に作用する初めての治療薬として、米国で迅速承認された。日本や欧州などでも承認申請中。患者とその家族にとっては朗報である。それだけでなく、介護の問題など高齢化する現代社会におけるさまざまな問題への好影響が期待される▼記憶をめぐって唖然としたことが最近、いくつかあった。記憶している電話番号が実家と自宅、そして会社の3つしかないことに気づいた。家人に用を告げようと階段を降りていったらその用を忘れてしまった。かつてあれほど好きだった俳優の名前を思い出せなかった-等々。これらは「あるある」の典型かもしれない▼年をとればだれしも物忘れが高じていく。それは忘れてもいいものを忘れていくだけだから、自然な老化現象として受け入れていくしかない▼しかし、人格の尊厳に関わる肝心なこと、家族や社会との関わり、一人で行動するための様々な記憶を失っていくのは想像するだにつらいことだろう。今回の新薬にかかる期待はそれゆえに大きい。(21・6・23)

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