日本の市街地に近い山間には、人為的に植えられたスギやヒノキの林が非常に多い。戦時中、人々は燃料としての薪を得るため、クヌギ、ナラ、カシなどの自然林を伐採し尽くした。戦後になると、禿げ山となった山にスギやヒノキを植えることが奨励され、補助金が支給された。そのときは、良いアイデアと思われた▼しかし、スギやヒノキは根が浅く横に伸びるため、強い地盤を作れない。また油分の多い針葉樹の葉は腐葉土になりにくく、山に保水力が備わらない。結果として河川の氾濫や地滑りなど、水害を甚大化させる要因となっているという▼しばしば報道される獣害の原因ともされる。スギやヒノキの林には、木の実など自然林が育む恵みがないからだ。つまり、サル、イノシシ、シカ、クマといった獣が暮らせる、本当の自然ではないのである。さらに、春には大量の花粉をまき散らして人々を苦しめている▼ちょうど良いというのが一番難しい。先日、老舗の洋食屋の四代目がテレビでそのようなことを話していた。奇をてらった何かではなく、全てがバランスすることで初めて到達できる地点がある。調和することで、個々の良さがさらに生きる相乗効果が生まれるという。料理も経営も、そして自然の成り立ちも、シナジーとはそういうことなのだろう。(20・7・21)

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