トヨタ自動車の豊田章男社長は先日、2030年にもガソリン車を全廃するという政府の方針に強い懸念を示した。日本のエネルギー政策に対する苦言、あるいは電動化が必ずしも二酸化炭素の削減につながらないという指摘は、まさに正論といえる。個人的にガソリン車が好きで、全廃は嫌だという筆者の心情はとりあえず横に置いておく▼章男社長は、自動車業界のビジネスモデルが崩壊するという危機感も示した。これらの問題を整理すると結局、カーボンニュートラルを強引に推し進めれば、自動車業界、ひいては日本経済が大きく落ち込んでしまう、という危機感にたどり着く。この話は、化学業界に置き換えてもそのまま通用するかも知れない▼世の中が新しくなると、人間社会ではさまざまな入れ替えが起こる。支配者や裕福な人たちの顔ぶれが入れ替わる。また、古い世の中の仕組みのなかで平和に暮らしていた大量の人たちの生活が脅かされる。歴史的にそういうことが繰り返されてきている。例えば明治維新が起こり世の中が新しくなると、武士が大量に失業した▼武士は本来、軍人である。だから戦のない江戸時代には仕事がない。仕事がないのに一定の収入が保証されていたのだ。さて、企業やそこで働く人の本来の仕事とは何だろう。そういう話かも知れない。(20・12・22)

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