大規模イベントやスポーツの中止・延期、閑散とする商店街、途方にくれる飲食店や宿泊施設のオーナー。新型コロナウイルスという敵が与える影響は、これまでもニュース映像として見ていた。しかし、どこか危機感が涌かない空気も確かにあった。要はウイルスによる疾病ではないのか、と▼この1週間で状況は変わった。11日にWHOが新型コロナはパンデミックの状態であると宣言すると、13日には米トランプ大統領が国家非常事態を宣言。市場では米ダウ平均株価が乱高下し、原油価格は1バーレル当たり30ドル台まで一気に急落した。世界は「コロナショック」という緊張状態に包まれた▼今回のコロナは、これまでの経験を超えた何かであり、被害も予想以上になるかも知れない。頭の中の記憶を探って考える。東日本大震災、リーマンショック、映画シンゴジラなど。襲ってくる災いへの甘い見通しを次々と裏切り、予想を超える被害が現実のものとなる記憶だ。この一週間はそうした過去を振り返り、備える思考が強まった▼一方で、過去の記憶が邪魔をする。いま起きている災いから早く逃れたい。そんな思考のシグナルも送ってくるのだ。大丈夫、どんな危機もいつかは収束する。危機が去れば、むしろ状況は良くなる、と。危機感だけで生きるのは難しい。(20・3・17)

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