三井化学はシンガポールに現地法人6社を置き、うち4社が工場を構える。地域統括会社・三井化学アジアパシフィックの酒井郁典社長にコロナ禍対応を聞いた。

▼…早期に緊急時の勤務体制に移行しました。

 「2月7日にシンガポール政府が感染症警戒水準を引き上げた直後、現地グループ6社合同で対策本部を立ち上げ、政府通達に沿ってスプリットオペレーション(※)実施などを決めた。4月7日のサーキットブレーカー(部分都市封鎖)発令後は、全6社が重要産業に従事する企業として営業継続を認められたため在宅勤務を原則としつつ、必要に応じて最低減の人員が時間限定でオフィス勤務する体制とした」

▼…外国人労働者感染拡大の影響は。

 「工場の日常的な維持補修業務などを担う契約企業の人員は最低限確保できた。しかし、大規模定修は延期せざるを得ず影響は出ている。定修には日本からの支援が必要だが、現状入国できないことが最大の懸案だ」

▼…ジュロン島で製造する包材用高機能樹脂や自動車部品用エラストマーなどグループ製品の荷動きは。

 「一般消費財、生活必需品関連の素材の需要はそれほど落ちていない。一方で自動車関連素材は先が読めない。物流も混乱しているため、自動車関連などの顧客は4~5月に在庫を積んだ。しかし、最終製品工場の稼働再開が遅れれば、上流の化学産業にも影響が及ぶ。先行きが数字上も明確になるのは7月以降だろう」

 「包装材用の高機能ポリエチレン(PE)は荷動き堅調で、エラストマーも自動車以外の用途が少なくない。中国で経済活動が戻り、域内自動車産業の中心地であるタイでも自動車の生産が再開された。順調ならば影響を最小限に抑えられるという期待もある」

▼…コロナ禍で先鋭化する米中摩擦の影響を回避するためにも、経営に変化は必要でしょうか。

 「リスク管理のため調達・生産の分散は必要だが、それが経済原則に沿わないケースもあり容易ではない。例えば、中国でしか調達できない原料があるとして、これを中国以外で自製化しようとするとコストがかさむ。化学品市場としても中国が中心で、東南アジアやインド、アフリカが今後伸びるという構図は変わらないだろう」

▼…ナフサ安で北米産シェールガスベースのエチレン誘導品のアジア流入は減るでしょうか。

 「北米産PEが流入し安売り競争になるとの懸念もあったが、現状影響は大きくない。計画が遅れている可能性もあるが、米州で地産地消する部分もあるだろう。高機能・特殊な包材用ポリエチレンを製造販売するというグループの姿勢は変わらない」

▼…都市封鎖でプラ容器の需要が伸びています。モノマテリアル(単一素材)化など再生しやすい素材のニーズは強まるでしょうか。

 「モノマテリアル化はマテリアルリサイクルが前提で、PEなどでそれが可能な領域を広げていくことは重要だ。一方でアルミ蒸着など、金属なしでは必要な包装機能を付与できない分野もある。要求される機能や再生方法に応じて素材を供給していく必要がある」

▼…シンガポールでは炭素税の徴収が始まりました。影響は。

 「確かに新規進出コストは高くなっている。しかし、例えば米国には原料はあるが、いま生産設備の建設コストはシンガポールの2倍程度とされ、投資回収にもそれなりの時間を要する。ジュロン島内での原料調達、設備建設や運営にかかるコスト、安心安全な運転などトータルで考えればシンガポールの魅力はなお大きい」(聞き手=中村幸岳)

試読・購読は下記をクリック

新聞 PDF版 Japan Chemical Daily(JCD)

新型コロナウイルス関連記事一覧へ

インタビューの最新記事もっと見る