先週末、古都奈良を訪ねた。観光客はそれほど多くなく、晴天に恵まれたこともあって奈良公園一帯をゆったりと散策した。春日大社に寄った折、国宝殿の企画展「最強の疫病終息の神-水谷社に祀る牛頭天王(ごずてんのう)」に惹かれて入ってみた▼牛頭天王はかつて悪疫鎮圧の除疫神として広く崇められていた。春日大社の摂社の中でも格式が高い水谷(みずや)神社の御祭神は明治維新の神仏分離令が発せられるまで牛頭天王だった。パンフレットによると、そのルーツはインドの祇園精舎の守護神という説があるようだ▼牛頭天王を祀る神社は祇園社、天王社と呼ばれていた。祇園社を名乗る神社の多くは京都の祇園祭で知られる八坂神社の分社とされる。水谷神社は「元祇園」と伝えられており、最近になって八坂神社の本殿の原形が水谷神社に由来するとの新説も出てきた▼水谷神社に収められていた平安時代後期の牛頭天王を描いた曼荼羅衝立や薬師如来鏡像などを見ながら、コロナ禍で妖怪アマビエがもてはやされるなら、除疫神の牛頭天王がもっと知られてもいいのではと思った▼本殿を参拝した後、少し離れた水谷神社に足を運んだ。コロナ感染者は減っているものの感染再拡大の可能性は否定できない。この疫病が終息に向かいますようにと願いを込めて手を合わせた。(21・10・15)

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