厳かな雰囲気のなか、遠くで蝉の声がする。「人生は、皆さんが思っている以上に速く過ぎ去るもの、儚いものです。ですから尊いのです」。蝉は絶妙の演出なのだが、年下のお坊さんの説教はなぜかこそばゆい。老人はどのような心持ちでこれを聞くのだろうか▼お寺に身内の一周忌の供養と新盆のお経を一緒にお願いした。二度のお経と焼香が済むと、説教である。「坊主のお経を聞くだけでなく、ご先祖様のことを考えてください」説教は続く。「人には必ず両親がいます。その両親にもそれぞれ両親がいる。20代前ともなれば、ご先祖様は100万人に達します」▼なるほど2の20乗は104万8516である。日本の人口推移を考えると、この法則はどこかで破綻しそうなのだが、それでも不思議な力をもった話だ。日本人なんてほぼ全員が親戚ではないか。そう思わせてくれる。日本全体のために手を合わせる気持ちが湧いてくる▼頑張れニッポン!。オリンピックが始まると、みな愛国者となる。日本人が出場する試合になると俄然、観戦に力がこもる。そしてメダルをいくつ取ったのか、その色はどうか気に掛かる。経済競争、技術競争の世界にも、分かり易いかたちのオリンピックを導入できないものか。アスリート同様に、企業の戦士達も頑張っているのだから。(21・7・27)

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