DICの顔料事業が大きな変化点を迎えている。6月末に旧BASF顔料事業の買収を完了させ、新たに欧米市場での事業展開を拡大。今後、顔料事業の売り上げ規模は2000億円台に達する見通しで、全社売上高も9000億円台が射程に入る。さらに顔料ポートフォリオの質的転換も本格化。すでにシェアの高いインキ用などの一般用途や液晶ディスプレイの表示用途に加え、化粧品用・自動車塗料用など高付加価値製品を大幅に拡充する。とくに先端分野向けの技術基盤を組み込んだ意義は大きく、車載LiDARの検知精度向上に資する高反射顔料の製品化を目指すなど、技術・知財の融合を通じた開発力向上を急ぐ。

◆1兆円目標の一里塚

 DICグループで過去最大の買収発表から2年あまり。10億1000万ユーロ(約1289億円)を投じ、BASF傘下で顔料事業を手がけてきたカラー&エフェクト(C&E)社など18法人を取得した。21年度業績には下半期分の売上高600億円が組み込まれる見通しで、カラー&ディスプレイ事業部門の売り上げ規模は大幅に拡大。22年度以降に通期で寄与すれば1000~1200億円前後が加算される見込みで、主要セグメントのバランスも安定化。25年度のマイルストーンとして掲げる「売上高1兆円、営業利益1000億円」の実現に一歩近づけた格好だ。

◆SC可視化で統合シナジー

 事業統合の主な狙いの一つは、地域的な補完性の向上にある。C&Eは売上高の50%程度を欧州で稼ぐとされ、「アジア・米州・欧州の3極でバランスのとれた市場構成となる」(浅井健執行役員)。C&Eは欧州に6か所、米国4か所、韓国1か所に工場を構え、韓・独・スイスなどについてはDICグループが初めて生産拠点を保有することになる。

 顔料は地域的なニーズの偏りが少なく、世界共通製品としての性格が強い。そうしたなかで真っ先に取り組むべき課題とされるのは、ロジスティクスの可視化などを通じてオペレーションを最適化すること。かねて猪野薫社長も「シナジーの眼目となるのはグローバル・サプライチェーンを持つ者同士の統合効果」と強調しており、20年に新設されたサプライチェーン企画部を司令塔として共同購買や物流・販売拠点の統合など合理化策を推進。22年度以降はグローバルSCマネジメントなど各種ビジネスプラットフォームの共通化を図っていく。

◆質的転換を加速

 もう一つの狙いは、高付加価値製品の拡充と用途拡大による製品ポートフォリオの質的転換だ。DICと米子会社のサンケミカルが抱えるラインアップとの重複が少なく、化粧品・自動車分野などを主力とするC&Eとは用途の面でも高い補完性を期待できるという。

 機能性顔料では、化粧品用のパール顔料やスペシャリティ用途のラインアップを拡充。スペシャリティ用途は農業用などが有力とされ、収穫物や種子などの色分けに用いる着色マーカーなどニッチ領域の深耕を図る構えだ。一方、ボリュームゾーンである一般顔料でも質的転換の意義は大きい。浅井氏は従来のラインアップにつき、「印刷インキ用・プラスチック用に重心があった」と評価。自動車用・建築用・工業用の塗料主要3分野を網羅する製品群を加えることで、塗料用の売上高は3・8倍に拡大する見通しだ。

◆自動車外装のパラダイムシフトに対応

 質的転換のカギを握るのは、両社の保有技術・知的財産の融合による製品開発力の向上だ。とりわけC&Eが得意としてきた自動車用に注力し、開発力の底上げでプレゼンスを大幅に向上させたい考え。C&Eの顔料関連技術には自動運転の実用化など自動車のパラダイムシフトに対応する開発テーマもあり、浅井氏は「自動運転車向けのLiDAR対応顔料や、遮熱対応のための顔料開発に注目している」と強調。これら先端用途向けを有力な技術テーマと位置づける。

 LiDARは近赤外線を照射して障害物や車間距離の測定を行うもので、今後車載利用の本格化に期待がかかる。ただ、検知対象が黒などの暗色系の場合に反射が弱まって精度が低下する恐れも指摘されており、塗色を問わず一定以上の反射率を実現する特殊な加工顔料が求められている。顔料ユーザーである塗料業界では日本ペイントホールディングスや関西ペイント、アクサルタ コーティング システムズなどが外装用の高反射塗料の開発に着手。OEM(自動車メーカー)への提案を進めているもようだ。DICは自動車塗料用顔料が精度向上に果たす役割は大きいと見て、「C&Eがすでに確立した同分野の顔料技術を生かして早急に市場投入を図りたい」(同)考えだ。

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