「ここの屋上より隅田川が見え家屋が見え鋪道がその右に見ゆ」この妙に写生に徹した短歌を巻頭近傍に置く歌集『歩道』。1945年に出版された。著者佐藤佐太郎は斎藤茂吉の高弟。そして、この歌集を出版第1号とするのが角川書店だ。現在の社名は「KADOKAWA」。「角川書店」は文芸書のブランド名として残っている▼創業者の長男は出版界の風雲児、角川春樹氏。『犬神家の一族』や『野性の証明』など、文庫と映画のメディアミックスで業界に衝撃を与えた。同社の変貌はそれにとどまらず、現在ではすでに出版社の枠を大きくはみ出ている。出版と映像、そしてネットブロードバンド事業という3本立ての事業形態にシフト。ライトノベル「ラノベ」やアニメ、ゲームなどで圧倒的ブランド力を誇る▼同社は埼玉県所沢市に「ところざわサクラタウン」を建設中だ。日本最大級のポップカルチャーの発信拠点として今年夏にオープンの予定。ミュージアム、イベントスペース、ホテル、レストラン、書店、オフィス、神社などが設けられる。KADOKAWAの本社機能の半分も移転する▼コンテンツの魅力が、国内外からどれほどの人を呼び寄せるだろうか。ここで子供向けのイベントなどを開いたら、「行列が見えその右にまた行列が見ゆ」なんてことになるかもしれない。(20・1・15)

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