次世代のエコカーに搭載する全固体LiBの開発プロジェクトがスタートした。参画する電池や材料、自動車メーカーを束ねるのが技術研究組合リチウムイオン電池材料評価研究センター(LIBTEC)で、評価に使う標準電池の早期実現を目指している。LIBTECの吉野彰理事長(旭化成名誉フェロー)は、「単なる電池やクルマの開発ではない。IT革命時のような信じられない世界が当たり前になる」と展望する。
 
 ◇
 
 - 車載に理想的な全固体電池は各国で開発が進んでいます。日本のライバルはどこになりますか。
 
 「やはり自動車に強いところになるだろう。世界をみると部材など過去に蓄積した伝統がある欧州勢が注目される。電動化が必要になったときに地力を発揮しそうだ。一方、米国はデトロイトのビッグ3ではなく、西海岸のテック企業がカギを握っている」
 
 - 自動車業界には危機感が高まっています。
 
 「いまのクルマは部品を組み立てて売っているだけだが、それだけではもったいない。新たなビジネスとしてIoT、クルマ同士の通信といった利用が考えられている。ある販売店でセールが始まったという情報を流せば、クルマは集客マシンとして機能するだろう。100%客を連れてきてくれる、とんでもないビジネスになる。
 地球環境問題に関してもCO2の排出削減がすべてではない。大事なのは大きな蓄電システムができることだ。インターネットでつながったクルマに電力需給情報を伝えて必要に応じて放電するとか、活用が可能になる。これで太陽光発電量の変動に対応もできる。
 一つの考え方は、どこかに大きな蓄電基地をつくり、電力網(グリッド)を使って電力変動を平準化すること。これにはコストがかかるので、普段は移動手段だが電気を溜められるエコカーの流用が役立つ。AI時代になってクルマが自動で売電してくれるようになる」
 
 - 米ウーバーのようなカーシェアが台頭しています。
 
 「自動車メーカーは車を使った新たなビジネスを作っていかねばならない。流れに乗り遅れた自動車メーカーは単なる下請けになってしまいかねない。また、環境対策として車の電動化だけをみていては間違うかもしれない。たとえ全土にグリッドを整備しても国土の狭い日本では欧州のような効果は難しい。むしろ先ほど言ったように車を蓄電池として活用することが効果的だろう。車はこういうこともできるという日本流を自動車業界は社会に投げかけていくべきだろう」
 
 - 今後の注目すべき事柄はなんでしょう。
 
 「IT革命の時もそうだったが、いろいろな要素技術が集まったときに一斉に新技術が立ち上がってくる。半導体や通信の進歩がピタッと重なったときに信じられない成果が生まれる。これと同じことが自動車業界でこれから起きてくる。信じられない世界が当たり前になる。電池開発、新車開発と単体で考えていくと全体像が分からない。AIやIoTと組み合わせて何が起きるか、たぶん一つのセットになっていくだろう。環境問題も間違いなくAIが肝になると思う」
(聞き手=広木功)
 

定期購読・見本紙のお申込み

PDF版のご案内

【祝・ノーベル化学賞受賞】吉野彰氏の関連記事

インタビューの最新記事もっと見る