川崎市産業振興財団ナノ医療イノベーションセンター(iCONM)は、東京都医学総合研究所(医学研)と共同で、新型コロナウイルスワクチンの開発に乗り出す。高分子ミセルにメッセンジャーRNA(mRNA)を封入して投与し、対応するたんぱく質を体内で作らせる。iCONMは以前からmRNAの医療応用を進めてきた。ワクチンに強い医学研と連携して実用化を目指す。

 ワクチンはウイルスを不活化・弱毒化してつくるのが一般的だが、量産法の確立に時間がかかる。新型コロナワクチンで注目されているのが病原体が持つRNAやDNAを使う手法。免疫機構に作用し、ウイルス由来ワクチンの投与と同じ効果が安全に得られる。ただ、RNAなどの核酸は体内の酵素で分解されやすい。

 iCONMは、片岡一則センター長が以前から手がけてきたミセルにmRNAを入れる手法を編み出した。体内の目的地までmRNAを安定して運び、適切なタイミングで放出できる。米モデルナが治験に入った脂質ナノ粒子(LNP)にmRNAを入れる手法だと、肝臓に副作用が出ることがある。

 封じ込めるmRNAも工夫した。本来mRNAは1本鎖の構造をとる。1本鎖のmRNAと、人工的に作成した2本鎖のmRNAを試したところ、ワクチンとしての機能は十分でなかった。

 そこでiCONMの内田智士研究員が過去に開発した「部分2本鎖mRNA」を採用した。mRNAの「ポリアデニン配列」だけに相補鎖を結合させ2本鎖にしたもので、1本鎖や2本鎖より性能が良かった。

 通常、ワクチンには効果を高めるアジュバントを添加するが、部分2本鎖では必要ない。「いわばアジュバント機能が一体化したワクチンができる。あらゆる部位を2本鎖にし、最適なのがポリアデニン配列だった」(内田研究員)。

 部分2本鎖mRNAでは、液性免疫のみならず細胞性免疫も強化することが判明した。獲得免疫は、体液中の抗体が異物を攻撃する液性免疫と免疫細胞が攻撃する細胞性免疫に大別される。新型コロナでは、SARS(重症急性呼吸器症候群)やMERS(中東呼吸器症候群)と同じく細胞性免疫が重要と指摘される。

 共同研究は今春に始まり、現在はマウス実験の段階。治験の開始時期は未定。実用化できた場合、投与回数は一度ですむ可能性が高いという。

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