新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的流行)を収束させ、社会・経済活動を正常化するには、有効なワクチンの開発が不可欠とされる。世界保健機関(WHO)によると、新型コロナに対するワクチンの研究開発プロジェクトは4月11日時点で70件。完成までに最短でも1年かかるとされているが、国を挙げた開発支援などにより、今秋にも医療従事者などを対象に提供できるとの見通しも出始めている。従来の方法より短期間で開発が可能とされる遺伝子ワクチンを筆頭に、米国や中国などで臨床試験が本格化している。日本でも大阪を拠点とした協力体制が立ち上がり、7月にも最初の臨床試験が始まる見込みだ。

 4月21日時点で海外で臨床試験が行われているワクチンは少なくとも5品ある。最も開発ステージが進んでいるのが、中国のカンシノ・バイオロジクス(康希諾生物)が開発するワクチン。3月18日から最初の第1相臨床試験(P1試験)を開始したばかりだが、わずか3週間でP2試験を開始。軍事科学院と共同で500例規模の試験を行う。

 米国で初めてP1試験を開始した米モデルナのmRNAワクチンも、4~6月期中にP2試験入りし、秋ごろにはP3試験の開始を目指す。米国保健福祉省の米国生物医学先端研究開発局(BARDA)から約4億8300万ドル(約520億円)の資金援助を得て開発を加速。米国食品医薬品局(FDA)の緊急使用許可(EUA)が認められれば、今秋にも医療従事者などへ供給できる可能性があるとみている。

 米中の開発競争と並び、英国でも英オックスフォード大学のワクチンがP1/2試験中だ。夏の終りごろには5000人規模の試験を開始し、9月ごろには100万接種分を用意する計画という。

 欧米の製薬大手も参入している。米ファイザーは、独バイオNテックと提携し、今月末にもmRNAワクチンの臨床試験を始める。年内には数百万本レベル、来年には数億本レベルの量産を可能にする計画だ。米ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)はBARDAと協力して10億ドル以上を投じ、9月にはP1試験を始める。年内に安全性、有効性を確認できれば、年明けごろにEUAを得て一部供給が可能と見ている。仏サノフィと英グラクソ・スミスクライン(GSK)も先ごろ共同開発契約を結び、今年中に臨床試験に着手。来年下半期の実用化を目指す。

 北米では、田辺三菱製薬傘の子会社・加メディカゴも、植物を用いたウイルス様粒子(VLP)ワクチンを開発。8月までにカナダで臨床試験を開始したい考え。

 日本では、創薬ベンチャーのアンジェスのDNAワクチンが注目されている。タカラバイオ、ダイセル、EPSホールディングス、ペプチド研究所、新日本科学などと相次ぎ提携し、ワクチンの実用化に必要な基盤を整えてきた。当初は最短で9月ごろの治験入りを見込んでいたが、大阪府・大阪市のバックアップを得て、7月から大阪市立大学医学部附属病院で治験を始めることが可能になった。製造を担当するタカラバイオは、年内で20万人分のワクチン供給を目指して量産体制を準備。大阪府の吉村洋文知事は先ごろ記者会見で、9月ごろにも実用化し、医療従事者などに優先的に投与していく考えを示している。

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