インド経済は内需依存傾向が強く、かつての日本や他の新興国のように輸出拡大をテコにするのと異なる成長過程をたどってきた。日系製造業の進出が妨げられていた背景にも、東南アジアで成功した、安くモノを作って輸出するという「勝利の方程式」が通じなかったことがある。しかしナレンドラ・モディ首相が進める製造業強化策は、日系素材各社に輸出面でも大きな事業機会をもたらしそうだ。
 モディ政権は今年1月、「メーク・イン・インディア2・0」を発表。世界トップに立つ可能性がある製造業10分野に自動車などと並び化学、バイオ技術、繊維、食品加工を位置付けた。同国化学産業は、中国品の減産も追い風に急速な成長が続く。現地の格付け大手インディア・レイティング&リサーチは、機能化学品産業(樹脂添加剤や日用品原料、水処理・建設用化学品など)は今後年10%伸び、25年に市場規模が約600億米ドルに倍増すると予測する。
 インドは2018年も7%台前半の高い経済成長を見込んでいるが、これを支えるのはGDPの約60%を占める個人消費。一方、IMFによると11年に40%だった投資のGDP比は17年に30%に下落した。同国人口は40年に16億人に達する(17年13億人強)とされるが、内需一本足の経済成長はいずれ行き詰まる。メーク・イン・インディアの最終目標は輸出の拡大だ。
 「衛生」や「健康」も重要なキーワード。政府は多くの健康プログラムを立ち上げ、1億人といわれる糖尿病患者の抑制に本腰を入れ始めた。ここ数年、デリーやムンバイで新鮮な果物や野菜を売りにする飲料店やレストランが増えた。人工甘味料や健康食品成分の需要も伸びている。こうした素材は同じ生活習慣病の増大に悩むアジア太平洋諸国への輸出も見込める。
 確かにインドには、農薬業界に混乱を生じさせているような輸入規制の不透明さや、金融機関の不良債権など課題が多い。欧州企業が強く競争も厳しい。しかし現地の日系化学・商社トップは「インドはいま、世界で最も政治・経済的な安定感が高い国の一つ」と口を揃える。
 与党は19年の総選挙で過半を確保すると予想され、現政権は24年まで続く可能性が高い。投資のGDP比は落ちたが、外国直接投資額をみると14~17年累計で約2000億米ドルと、前3カ年累計比で倍増。政治が安定しているため企業も事業戦略を立てやすい。世界的な景気回復などを背景に、日系化学企業の業績も軒並み上向いているようだ。中東やアフリカへの橋頭保としても、いまがインド事業を伸ばす好機だ。

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