代表取締役 前田貴広
地球環境保全に資する活性炭の可能性を追求する満栄工業(岡山県吉備中央町)。再生や添着といった得意とする加工技術を駆使したり、大学などとオープンイノベーションによる研究開発を推進したりしながら付加価値を高め、新たな価値を提供することで活性炭事業を伸展させていく。
2021年4月に創業100周年を迎える。活性炭ビジネスに進出したのは1948年。当時、祖業の松根油の需要が漸減しており、生き残り、発展を遂げていくため、松根油の生産過程で生じる絞りかすの炭を生かして日本で初めてヤシ殻活性炭の生産に乗り出した。
現在はココヤシ殻を中心とするヤシ系、石炭を破砕または粉砕・成型した石炭系、おが屑などの木質系の3種類の原料を用いた活性炭を品揃えしている。原料は、東南アジアや中国といった海外で炭化、賦活化された微細孔が空いた状態の高品位なものを調達している。満栄工業では本社工場でこれら原料に加工を施し、品質検査したうえで、関西から九州にかけての西日本を軸に提供している。
強みは加工技術。混合技術はこの1つで、吸着性能の異なる活性炭を組み合わせたり、活性炭に薬剤を添着させたりして単一の活性炭では取り除けない成分を吸着できるようにしている。また粉砕・破砕・篩別といった粒度調整技術、pH(ペーハー)調整技術、小分け技術にも長けている。
分析評価技術も優れている。各種活性炭の特性を熟知する担当者の存在に加え、吸着性能を調べられるBET法比表面積測定装置をはじめ測定分析機器も充実している。
同社の活性炭は高品質、高機能といった点が高く評価され、さまざまな分野で使われている。細孔が小さいヤシ殻由来活性炭は脱臭、脱色性能が高いことから浄水、飲料水の精製、臭気ガスの吸着、溶剤回収などで利用。細孔が大きい石炭系は、粉末タイプはダイオキシン除去、破砕した粒状タイプは浄水場・下水処理場・廃水処理施設でそれぞれ主に用いられている。細孔の大きさがヤシ殻と石炭系の中間である木質系は、浄水場や食品・化学工業などの精製工程で活躍している。
活性炭は使用するにつれ吸着性能が低下することからリサイクルも手がけている。各ユーザーから回収した活性炭を再賦活により再生させ、同一のユーザーに返却している。リサイクルは本社工場と鳥取工場(鳥取県日野町)で実施している。
持続的成長を果たすため、活性炭の高付加価値化を推進する。2、3年前に着手したのが新しい原料の探索。ヤシ系、石炭系といった既存原料は東南アジアや中国などから安定的に調達できているものの為替変動にともなうリスク、さらにはこれら国・地域は人口増加、経済成長にともなう生活水準の向上により水や食料の需要が増し、域内での活性炭のニーズも高まるとみられている。同社では将来にわたり活性炭の安定供給を維持できるよう、国内で入手できる活性炭用原料の研究開発に努めている。今春の創業100周年を契機に、小型の賦活用設備を購入する予定で、5年以内には成果を上げたい考え。
既存用途を伸ばしていくのと並行して、これまで手がけていない領域の開拓にも挑む。情報収集に励み、加工技術などを磨き、評価体制を整えていく。
経営理念の中で「『環境保全』を通じて、人々の豊かな生活、安全と幸福、社会の発展に貢献します」を使命とし、行動指針の1つに「会社は社員の幸福の為にある」を掲げている。これらを実現するため、社員が能動的かつ、いきいきと働けるよう職場環境の整備に注力している。数年前から「働きがい改革」に励んでおり、勉強会を通じて地球環境保全に寄与する活性炭の魅力などを説明するとともに、設備更新の必要性など各部門で課題を洗い出し改善してきた。こうした結果、社業に誇りを持ち、自主的に行動する社員が増えてきている。
福利厚生も充実を図る。昨年、本社の隣接地を購入しており、この地に事務所、研究棟、そして食堂の建造を計画している。食堂では社員の健康を考慮した料理を提供したいとしている。
社会貢献活動にも熱心に取り組んでいる。本社ではお祭りやマラソン大会に参加し地元を盛り上げているほか、サッカーJ2リーグのファジアーノ岡山に協賛し、社員とその家族がスタジアムで応援するなど、J1昇格を目指すチームに声援を送っている。昨年は新型コロナウイルスが世界的大流行したが、第1波に見舞われていた5月に本社と鳥取工場がそれぞれの地元自治体にマスクを寄贈。さらに今年3月には吉備中央町に同社の活性炭をフィルターに使用した空気清浄機を寄付した。