音楽を中心に文化大国の歴史を有するオーストリア。多くの観光客が訪れる同国においてエレクトロニクスやライフサイエンス、環境技術などとともに、自動車産業の育成が国家戦略として進められている。産学連携と産業クラスターを軸に競争力向上に取り組む一方、税制優遇制度など事業環境の整備をベースに企業誘致を活発化することで、国際的な研究開発(R&D)拠点として産業基盤の拡充を推進する。
 中部ヨーロッパの内陸に位置する地理的優位性と25%の低法人税率や連結納税制度(グループ課税)などを背景に、300を超えるグローバル企業がここにに中東欧(CEE)の統括拠点を構えるほか、東欧・ロシアへのアクセスがよく物流のハブ拠点にもなっていることから、日本からも複数の大手物流会社が進出している。基盤強化を推進する研究開発に対しては10%の税控除が認められているほか、研究所設置により50%控除が受けられる優遇制度も導入されており、GDPに対する研究開発投資の比率が2・8%(2011年実績)とドイツ並みの水準となっている。
 工業部門の育成は、高い教育水準および高等教育への投資や熟練工が育ちやすい環境、低い失業率、ドイツやベルギーなどに比べ低い労働コストといった優位性を背景に推進しているもの。工業系大学と関連企業の集積による産業クラスター、さらには基礎技術と応用技術の橋渡し役を担う約40のコメットセンター(大学・企業が出資するベンチャー企業)が連携して技術開発を中心に国際競争力の向上に取り組んでいる。
 基礎研究を担う大学機関では、材料から駆動システムにいたる幅広い分野を対象とした技術開発が進められている。その中の1つ、グラーツ工科大学では化学工学環境技術研究所において燃料電池の研究開発を推進中。現在、プラチナ使用量の低減が可能な新触媒をはじめ、バイオガスの水素改質技術や低温燃料電池、空気・亜鉛バッテリーなどの開発テーマに取り組んでいる。研究グループを率いるヴィクトル・ハッカー准教授は横浜国立大学に留学した経験があり、両大学は燃料電池開発で密接な関係にある。燃料電池の実用化については「使用過程および製造工程のCO2排出量を考慮すると大きなチャンスがある」(ハッカー教授)と述べ、自動車各社が販売を予定している14?15年までにコスト面をクリアできるかがポイントとみる。
 また、ここを拠点に液体水素を燃料とする熱効率のいいエンジンやエアコン、コンプレッサーの開発を手掛けるハイセントエイ・リサーチ社やバーチャル技術の応用により次世代開発技術に取り組むバーチャル・ビークル社が事業を展開。同大学が50%以上を出資する両社は、最先端技術をベースに民間資金を呼び込むことで研究開発の促進を図っており、ハイセントエイ社は09年にBMWと共同で熱効率をターボディーゼルエンジン並みに引き上げた水素エンジンを、10年にはオーストリアで初となるガソリン、天然ガス、水素を燃料として使用できる多種燃料対応車を開発した実績を有する。
 一方、コメットセンターであるバーチャル・ビークル社は、独立した国際的なR&Dセンターとして45以上の民間企業および35以上の大学との共同研究を実施しており、事業規模は企業の委託費を軸に800万ユーロから1000万ユーロ。BMWに炭素繊維に関する技術提供を行うなどの実績があり、現在はより効率的な自動車開発を実現することを目的に統合シミュレーション技術の開発・実用化に取り組んでいる。

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