軽量・低コストかつ安全性の高い新車開発を目指して高張力鋼板(ハイテン材)の多用化が進んでいる。近年発売される新モデルではハイテン材の使用比率(ハイテン比率)が50%前後まで高まっており、低燃費化が進む軽自動車ではホンダの「N BOX」がサイドパネルに590メガパスカル級ハイテンを採用、スズキの新型「ワゴンR」でも980メガパスカルのフロントピラーを実用化するなど、より強度の高い材料へのシフトが加速している。その背景にあるのが、材料開発とともにデザイン・構造設計の工夫と成形技術の高度化だ。
 加工性をはじめとする優れた特性やコスト優位性から、骨格部品をはじめ自動車材料のメーン素材として使用されている鉄鋼材料。世界的に高まる低燃費ニーズに対してはハイテン使用による薄肉化を主に軽量化が進められている。昨年10月には「第3世代のハイテン」(新日本製鉄)とも位置付けられる1・2ギガパスカル級の強度を有するハイテン材が開発された。骨格部品に適用可能な従来比2倍のプレス成形性を実現しており、日産自動車が2013年に発売する新車への適用が決まるなど、今なお材料は進化を続けている。
 しかし、鋼板の高強度化は靱性や延性の低下により成形性が損なわれるという課題を抱えている。強度とともに靭性向上も可能な結晶粒の微細化による強化手法でも、溶接施工による結晶粒の肥大化を抑制する技術が必要だ。このため近年の取り組みでは、材料特性の向上とともに加工法を含む部材の構造設計にまで踏み込んだ開発が加速している。
 N BOXのサイドパネルの軽量化は、デザインの工夫により実現したもの。パネル上部に270メガパスカル級鋼板、下部に590メガパスカル級ハイテンのテーラードブランク材を使用し、外部に露出してしまう鋼板の溶接ラインを車体デザインとして取り込むことで対応した。またJFEスチールでは、独自の組織構造により高強度化と成形パネル部品に求められる品質を確保した「ユニハイテン」でドアやフード、ルーフといった外板パネル部品のハイテン化を進めているが、提案に際しては「部品の剛性向上まで踏み込んだ構造提案もしている」(JFEスチール)という。
 一方、スズキの新型ワゴンRは、新日鉄が開発したプレス成形技術により軽自動車初の980メガパスカル級フロントピラーを実現した。同技術は専用金型と鋼材の挙動解析によりプレス時に発生する割れやシワの回避を可能としており、同社ではすでに1・2ギガパスカル級ハイテンへの適用研究を推進中。また住友金属工業では、複雑な形状をした鋼管部材の高効率製造を可能とする3次元の曲げ加工が可能な3DQを確立。難加工のハイテン材に対応しており、従来法では不可能な1470メガパスカル以上の材料にも適用できることから、構造上より強度の高い管材の多用化により、さらなる軽量化が期待される。
 世界鉄鋼連盟の軽量車体開発プロジェクトでは、加工法と設計技術との組み合わせで鉄鋼材料のみで800キログラム(Aセグメント)の軽量車体が実現可能との研究成果を得ている。スズキが四輪駆動車用ハウジングをハイドロフォームで生産する技術を新たに開発するなど鋼材活用に対する自動車メーカーのニーズは高く、今後も材料・構造設計・加工法の三位一体により「材料特性をとことんまで使い切る」(住友金属)取り組みを軸に、軽量かつ安全・低コストな車体開発に貢献していく。

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