農林水産省をまとめ役とした「フードテック官民協議会」が今月発足した。4月に立ち上げたフードテック研究会での議論の方向性を踏まえ、フードテックが技術手段にとどまらず、新しいビジネスモデルの創出につながることを期待したい。
 研究会は7月まで6回、オンライン形式で食の新たな技術、新産業化について課題や対応を議論し、中間取りまとめを行った。研究会には食品業界だけでなく、三菱ケミカル、昭和電工マテリアルズ(10月1日で日立化成から社名変更)、カネカ、大陽日酸といった化学企業が参加。食品の先端技術による新産業を導き出そうとしている。
 取りまとめでは、資源循環型の食料供給システム構築や、高いQOLを実現する新技術の技術基盤を国内に確保することが重要と認識。オープンイノベーションによって民間活力を最大限に引き出し、フードテック領域への研究開発・投資を促進するとの提言がなされた。
 フードテック投資は日本は少額だが、世界で年間2兆円を超す。日本が優位になる仕組みや技術活用のルール形成を通じた戦略化などを、どのようにすべきか、協議の場として協議会設立にいたった。作業部会を設けて専門的な議論、ロードマップ策定、制度提言などを行う。
 フードテックの要素としては植物ベースの代替肉、昆虫食、ゲノム編集技術などが挙げられる。国際競争が激しくなると予想されるのが、代替肉など、たんぱく質のルール形成をめぐる問題。品質基準、安全性試験のあり方、生産法の認証、知的財産権の扱い方、国際規格などだ。認証制度が進展する欧米では今年5月、EUが代替たんぱく質を新戦略に位置付け、優位性確保を狙っている。世界でたんぱく質の需要拡大が見込まれること、持続可能性があること、SDGs目標への対応などが背景にある。機関投資家の間ではESG投資の情報開示基準に、代替たんぱく質市場拡大による財務インパクトを検討する研究が始まっている。
 一方、国内では、代替肉で日本ハム、丸大食品などが国内市場に参入し、またフレッシュネスバーガーが今月から国内ベンチャー企業DAIZの植物肉パテを使用したハンバーガーの本格販売を開始したところ。しかし日本にはルールがなく、各社各様に代替肉の品質・素材設計を行っている。パソコンやスマートフォンのOS、ISOなどが欧米主導にあるなか、食品加工技術に優れる日本が世界をリードし、たんぱく質のルールを発信していけるか。基盤構築の機会を見逃すことなく、早急の戦略・施策を望みたい。

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