武田薬品工業は新型コロナウイルス感染症に対し、既存の自社化合物を活用した治療薬開発に乗り出す。ドラッグ・リポジショニングと呼び、他の疾患の治療薬として開発・販売している自社品3つを転用する。新型コロナに感染したがん患者を対象とする臨床試験を開始し、遺伝性血管性浮腫(HAE)治療薬2剤の転用も検討する。ワクチンについても他社との提携を模索し、開発を後押しする考え。

 武田薬品は血しょう分画製剤事業10社などとコンソーシアムを立ち上げ、新型コロナ患者の回復期血しょうを用いた高度免疫グロブリン(抗体)製剤を共同開発している。これに続き、既存の自社品3つを転用した治療薬開発を始める。

 同社主導の臨床試験が予定されているのは、抗がん剤として開発中のSUMO阻害薬「TAK-981」。新型コロナなどSARS(重症急性呼吸器症候群)ウイルスの増殖に必要なNたんぱく質の産生を阻害する働きがある。米国の治験データベースの登録情報によると、固形がん・血液がん患者を対象に計画していた第1相臨床試験を拡大するかたちで、新型コロナ適応の臨床試験を行う。

 新型コロナに感染したがん患者を対象に実施する。入院が必要な中等症レベルであることが条件で、人工呼吸器などが必要な重症例は対象外。米国で行い、約60例を組み入れる予定だ。ウイルスが陰性化した症例数を主要評価項目に設定している。

 HAE治療薬「フィラジル」(一般名・イカチバント)、「TAK-743」(同ラナデルマブ)2剤の転用も検討している。いずれも買収したシャイアー由来の医薬品。フィラジルは海外で複数の医師主導治験が計画されており、武田薬品から治験薬の提供を始めた。ラナデルマブは同社による企業治験として開発可能か検討しているという。

 ワクチンでは自社品は開発せず、他社との提携による開発支援を模索。製造面などで協力することを視野に入れて、ワクチン事業を手がける複数の企業と協議している。製造協力する場合は光工場(山口県)を活用する。同工場はパンデミックインフルエンザに対する細胞培養ワクチンを製造できる施設がある。

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