今更聞けない化学産業の基本を分かりやすく解説:『石油化学』編②
本コラムは、前回の『今更聞けない化学産業の基本を分かりやすく解説:『石油化学』編①』の続きです。
オレフィンをはじめとした主要石油化学製品は、世界的な情勢やいくつもの要因から常に市況が変化しているので、絶えず動向を注視することが求められます。
2023年の市況については、『ケミカルビジネス情報MAP2024』にて詳しく記載しています。
※この画像は前回のコラムで使用したものと同じです。
前回は上の表のうち、酸化エチレン(エチレンオキサイド;EO)、エチレングリコール(EG)、塩化ビニルモノマー(VCM)、酢酸ビニルモノマー(酢ビ:VAM)、アセトンについて解説しました。
今回はベンゼン以下を解説します。
オレフィンとその誘導体を解説
芳香族炭化水素は、「ベンゼン環」と呼ばれる6つの炭素原子が正六角形に結合した構造を持っています。特に、炭素数が6のベンゼン(Benzene)、7のトルエン(Toluene)、8のキシレン(Xylene)は、それぞれの頭文字をとって “BTX” として知られています。
かつては、BTXは鉄鋼用コークス炉から副生する粗軽油やコールタールを精製分離して生産されていました。しかし、現在では、製油所の改質装置を通じてオクタン価を高めたガソリンや、ナフサを熱分解してエチレンやプロピレンを作る際に副生する分解ガソリンから抽出されることが主流となっています。
【ベンゼン】
炭素が正六角形に結合した形をしています。無色透明の液体で、独特の匂いがします。
〔用 途〕 純ベンゼン=合成原料として染料、合成ゴム、合成洗剤、有機顔料、有機ゴム薬品、医薬品、香料、合成繊維(ナイロン)、合成樹脂(ポリスチレン、フェノール、ポリエステル)、食品(コハク酸、ズルチン)、農薬(2,4-D、クロルピクリンなど)、可塑剤、写真薬品、爆薬(ピクリン酸)、防虫剤(パラジクロロベンゼン)、防腐剤(PCP)、絶縁油(PCD)
熱媒溶剤級ベンゼン=塗料、農薬、医薬品など一般溶剤、油脂、抽出剤、石油精製など、その他アルコール変性用
【トルエン】
ベンゼンにCH₃が1つ結合した形をしています。ベンゼンと同様の匂いがする無色透明の液体です。
〔用 途〕 染料、香料、火薬(TNT)、有機顔料、合成クレゾール、甘味料、漂白剤、TDI(トリレンジイソシアネート、ポリウレタン原料)、テレフタル酸(第2ヘンケル法)、合成繊維、可塑剤などの合成原料、ベンゼン原料(脱アルキル法)、ベンゼン
【キシレン】
ベンゼンにCH₃が2つ結合した形をしています。p-キシレン(パラキシレン,PX)、o-キシレン(オルソキシレン)、m-キシレン(メタキシレン)およびエチルベンゼン(EB、原油やナフサなどから得られたエチレンとベンゼンを化学反応させる)の混合物であって混合キシレンと呼ばれる無色の液体です。
〔用 途〕 分離により=p-キシレン、o-キシレン、m-キシレン、エチルベンゼン
CH₃を分離して=ベンゼン
合成原料として=染料、有機顔料、香料(人造じゃ香)、可塑剤、医薬品(VB2)
溶剤として=塗料、農薬、医薬品など一般溶剤、石油精製溶剤
以下はBTXから作られる代表的な誘導品です。
【高純度テレフタル酸(PTA)】
白色結晶または粉末です。ポリエステル繊維、PETボトルなどの原料としてアジアでの需要が拡大しています。パラキシレンを原料に酸化反応を経て粗テレフタル酸を製造し、分離・精製によって高純度化(99.9%以上)した後、ポリエステル原料とされます。
〔用 途〕 ポリエステル繊維(テトロン)、ポリエステルフィルム(ルミラー、ダイアホイル)、PETボトル、エンプラ(ポリアリレート)の原料
【フェノール(PH)】
ベンゼン環にヒドロキシ基(-OH)が結合した芳香族系の化合物で、白色結晶塊状(完全に純粋でないものは淡紅色)です。大気中から水分を吸収して液化します。特異臭、腐食性があり、有毒です。かつて石炭からコールタールを作る過程で副生したことから、「石炭酸」と呼ばれていました。工業的製法はキュメン法とタール法があり、日本のメーカーは主にキュメン法を採用しています。プロピレンにベンゼンを付加したキュメンを生成し、これを酸化したあと、硫酸で分解するとフェノールとアセトンが生成されるという方法です。さらにフェノールとアセトンを反応させてビスフェノールA(BPA)を生産します。BPAはポリカーボネート(PC)樹脂、エポキシ樹脂の原料として加工されます。このため、PC樹脂の需要がフェノールおよびBPAの生産と供給を決める構造となっています。
〔用 途〕 消毒剤、歯科用(局部麻酔剤)、ピクリン酸、サリチル酸、フェナセチン、染料中間物の製造、合成樹脂(ベークライト)および可塑剤、2,4‒PA原料、合成香料、ビスフェノールA、アニリン、2,6‒キシレノール(PPO樹脂原料)、農薬、安定剤、界面活性剤
【ビスフェノールA(BPA)】
白色の結晶性粉末フレークまたは粒状品で、かすかなフェノール臭があります。脂肪族または芳香族のケトン、あるいはアルデヒドの1分子とフェノール類の2分子の縮合で得られます。
〔用 途〕 ポリカーボネート樹脂、エポキシ樹脂、100%フェノール樹脂、可塑性ポリエステル、酸化防止剤、塩化ビニル安定剤、エンプラ(ポリサルホン、ビスマレイミドトリアジン、ポリアリレート)
【スチレンモノマー(SM)】
無色の液体。酸化鉄を主体とした触媒を使用し、エチルベンゼンから水素を取り除く製法などで製造されます。
〔用 途〕 ポリスチレン樹脂、合成ゴム、不飽和ポリエステル樹脂、AS樹脂、ABS樹脂、イオン交換樹脂、合成樹脂塗料
【シクロヘキサン】
刺激臭があり変質しやすい無色の液体です。製法としては、石油のなかに含まれるものを分留して得る方法、ベンゼンと水素とをニッケル触媒の存在下で反応させる方法があります。蒸留による精製が困難なため、ほとんどはベンゼンの水素化によって得られます。
〔用 途〕 カプロラクタム、アジピン酸、有機溶剤(セルロース、エーテル、ワックス、レジン、ゴム、油脂)、ペイントおよびワニスのはく離剤
【カプロラクタム(CPL)】
わずかな臭気がある白色粉末で、空気中の水分を吸収し水溶液になります。ナイロン-6の原料として衣服などの繊維向けと、自動車部品などに使われるエンプラ向けに大別されます。
ベンゼンを出発原料に、シクロヘキサンを経由し、CPLとなります。肥料の原料となる硫酸アンモニウム(硫安)が副生物として生じるプロセスと、生じないプロセス(住友化学が事業化)の2通りがあります。
〔用 途〕 合成繊維、樹脂用原料(ナイロン-6)
【トリレンジイソシアネート(TDI)】
2,4-TDIと2,6-TDIの混合物異性体があり、いずれも常温では刺激臭のある無色の液体です。トルエンから中間体のトリレンジアミンを合成し、この中間体とホスゲンを反応させて製造され、軟らかく復元性のある軟質ウレタンフォームの原料として主に使用されます。軟質ウレタンフォームは軽量という基本性能に加えて、クッション性、耐久性、衝撃吸収性、耐薬品性、吸音性などの特徴があり、成形や加工の自由度も高いため、日用品から工業製品、産業資材まで、様々な用途に活用されます。最近は、特に自動車を中心として高弾性フォームの需要が伸長しています。また家庭用ソファー、ベッド、マットレス、座布団などに用いられています。
〔用 途〕 ポリウレタン原料(軟質フォーム、硬質フォーム、塗料、接着剤、繊維処理剤、ゴムなど)
【ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)】
間体のメチレンジアニリン(MDA)を作り、ホスゲンを反応させて製造します。精製純度によって、冷蔵庫や建材(断熱材)などの一般の硬質フォームに用いるポリメリックMDI(クルードMDI)と、靴底やスパンデックス、合成皮革、エラストマー、塗料、接着剤向けなどのモノメリックMDI(ピュアMDI)に分かれます。全体のおよそ75%がポリメリックMDIの需要といわれています。MDIから作られた硬質フォームは断熱、保冷材料として車両、船舶、冷凍機器、電気冷蔵庫、ショーケース、自動販売機、保温・保冷工事用、重油タンク、パイプなどに利用されます。
〔用 途〕 接着剤、塗料、スパンデックス繊維、合成皮革用、ウレタンエラストマーなどの原料、吸音材料(スタジオなどの音響調整、防音)
2023年以降の情報や今後の見通しは、『ケミカルビジネス情報MAP2024』にて詳しく記載しています。
このコラムについて
このコラムは『ケミカルビジネス情報MAP2024』を要約したものを掲載しています。
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