
製品材料について詳しく解説:プラスチックス① 熱可塑性樹脂 編
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多くの原子で構成された大きな分子は高分子と呼ばれ、自然に存在するもの(天然高分子)、人為的に製造されるもの(合成高分子)、および天然高分子から化学的に誘導されるもの(半合成高分子)などがあります。合成樹脂、合成ゴム、合成繊維などは合成高分子に属します。これらはモノマーと呼ばれる原料分子を鎖状に結合(重合)することで生成され、こうしてできた高分子はポリマーと呼ばれます。合成樹脂には、加熱すると軟らかくなる熱可塑性樹脂と硬くなる熱硬化性樹脂があります。今回は、熱可塑性樹脂について詳しく解説します。
熱可塑性樹脂①:ポリエチレン(PE)
ポリエチレンは、石油由来のナフサや天然ガスなどから得られるエチレンを重合して得られる、高分子の熱可塑性樹脂です。軽くて加工しやすく、防湿性や耐水性、耐薬品性などに優れており、包装や産業資材として幅広く使用されます。ポリエチレンは以下の3種類に分類されます:
高密度ポリエチレン(HDPE): 密度が0.942以上で硬く、コンテナや日用雑貨、ショッピングバッグなどに使われます。
低密度ポリエチレン(LDPE): 密度が0.910以上0.930未満で軟らかく、主にフィルム用途で、食品包装などに使用されます。
直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE): 密度0.94以下で、柔らかく、農業用フィルムや重包装袋などに適しています。
熱可塑性樹脂②:ポリプロピレン(PP)
ポリプロピレンは、プロピレン分子が立体的に規則正しく配列した結晶性の高分子であるため、融点が高く強度やその他の性能に優れています(水より軽く、繊維としても非常に強く、耐薬品性に優れています)。さらに、成形加工が容易であるため、日用品から工業製品まで幅広く利用されています。ポリプロピレンは、ポリエチレンや塩化ビニル樹脂、ポリスチレンなどの汎用樹脂の中で最も高い耐熱性(130〜165℃)を持ち、軽量で加工性や耐薬品性にも優れています。
この樹脂は、自動車部品のほか、洗濯機や冷蔵庫などの家電製品、住宅設備、医療用容器・器具、コンテナ、パレット、洗剤容器・キャップ、飲料容器のボトルキャップ、食品カップ、食品用フィルム・シート、包装用フィルム、産業用フィルム・シート、繊維、発泡製品など、非常に多岐にわたる用途で利用されています。
熱可塑性樹脂③:ポリスチレン(PS)
ポリスチレンは、ナフサを原料としてベンゼンとエチレンからエチルベンゼンを製造し、さらに脱水素してスチレンモノマー(SM)にし、これを重合して作るプラスチックです。このプラスチックに気泡を含ませたものが発泡スチロールとして知られています。ポリスチレンは高周波電流に対する絶縁性が非常に優れているため、ラジオ、テレビ、各種通信機器のケースや内部絶縁体として広く利用されています。また、ポリブタジエンとグラフト重合して耐衝撃性を持たせたポリスチレンもあり、耐水性とも相まって電気工業製品、家具建材、一般日用雑貨などに幅広く使用されています。ポリスチレンには、透明度が高く硬くて成形性に優れる汎用ポリスチレン(GPPS)と、ゴム成分を加えた乳白色の耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)の2種類があります。GPPSは食品包装、使い捨てコップ、弁当や惣菜用ケース、お菓子の包装などで使われています。一方、HIPSはテレビ、エアコンといった家電製品、複写機やコピー機などのOA機器、玩具などに使用されます。
熱可塑性樹脂④:塩化ビニル樹脂(PVC)
塩化ビニル樹脂(PVC)は、性能、価格、リサイクル性のバランスが良い汎用樹脂で、原料は塩とエチレンです。電解ソーダ工業で発生する塩素とエチレンを反応させて中間体の二塩化エチレン(EDC)を生成し、それを熱分解して塩化ビニルモノマー(VCM)を作ります。一般的に、このモノマーを懸濁重合法で合成して塩化ビニル樹脂を生成します。製品は安定剤、可塑剤、着色剤などの添加剤を加えて混練し、カレンダーや押出、射出といった加工法で製造され、成形材料として出荷されることもあります。電線用の軟質コンパウンドが代表的です。PVCは化学的に安定し、難燃性、耐久性、耐油性、耐薬品性、機械的強度に優れ、軟質から硬質まで幅広い設計が可能です。加工性や成形性、寸法精度も優れており、住宅、建築、自動車、家電、食品包装などの分野で幅広く使用されています。具体的には、硬質塩ビパイプや壁紙、床材、サッシ、雨樋などの建材、自動車内外装、食品包装フィルム、医療用チューブ、かばん、文房具、玩具などに用いられます。
熱可塑性樹脂④:ポリビニルアルコール(ポバール、PVA)
ポリビニルアルコール(PVA)は、水溶性、接着性、ガスバリア性など多様な機能を持つ合成樹脂で、繊維加工や製紙用薬剤、接着剤、塩化ビニル重合用分散剤、農薬包装フィルム、光学フィルム、衣料用洗剤の個包装フィルムなど、幅広い分野で利用されています。
熱可塑性樹脂⑤:ABS樹脂
ABS樹脂は、アクリロニトリル(A)、ブタジエン(B)、スチレン(S)の3種類のモノマーから構成されています。通常、ブタジエンを単独で、またはスチレンとアクリロニトリルとともに重合したゴム(PBR, SBR, NBR)を、スチレンとアクリロニトリルのコポリマーと混合して作られます。ABSは熱可塑性プラスチックで、堅牢で硬く、自然色は薄いアイボリーですが、任意の色に着色でき、光沢のある成形品が作れます。最近では透明タイプも開発されています。
この樹脂は機械的性質、電気的性質、耐薬品性に優れ、押出加工、射出成形、カレンダー加工、真空成形など、さまざまな加工技術が適用可能です。用途も多岐にわたり、自動車の内装材、電気製品やOA機器のハウジング、住宅・建材、雑貨・玩具などがあります。しかし、スチレンモノマー、アクリロニトリル、ブタジエンの価格変動が事業のリスク要因となっています。
具体的な用途は、電気製品(冷蔵庫, 掃除機, 洗濯機, 扇風機, テレビ)、車両(四輪車・二輪車など)、OA機器、電話、雑貨(家庭用品, 住宅部品, 容器, 靴ヒール, 文房具, レジャー用品)、その他の機器や家具建材、塩ビ強化剤などです。
このコラムについて
このコラムは『ケミカルビジネス情報MAP2024』を要約したものを掲載しています。
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