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今更聞けない化学産業の基本を分かりやすく解説:『無機薬品』編


目次[非表示]

  1. 1.無機薬品について詳しく解説
  2. 2.ヨウ素について解説
  3. 3.カーボンブラックについて解説
  4. 4.このコラムについて
  5. 5.書籍・セミナーをご活用ください

今さら聞けない化学産業の基本を分かりやすく解説、8本目の今回は無機薬品について解説します。

無機薬品について詳しく解説

「無機」は「有機」に対する概念であり、もともとは生物由来の物質が「有機」と定義されていました。それに対して、鉱物などに由来する物質は「無機」とされてきました。現在では、炭素化合物を含むものは有機物とし、それ以外を無機物としています(ただし、炭化物やシアン化物など単純なものは無機物とされる場合があります)。元素周期表に載っている炭素以外の元素はすべて無機化学の領域に属し、これらの元素は多様な構造や性質、反応性を持ち、まったく新しい化合物の開発が期待されています。

無機薬品は、プラスチックや塗料、紙・パルプ、水処理などの分野で幅広く利用されており、デジタル家電やIT関連、新エネルギー分野での新たな用途も開発が進んでいます。特に、半導体製造においては、塩酸や硝酸などの強酸が用いられ、高純度化が進行しています。

塩ビ安定剤は、バリウム・亜鉛系やカルシウム・亜鉛系、硬質塩ビ用のスズ系に分かれ、熱分解や紫外線劣化を防ぐため塩ビ樹脂に添加されます。また、自動車業界での需要が回復しており、公共投資やインフラ関連の需要も増加傾向にあります。硫酸バンド(硫酸アルミニウム)とポリ塩化アルミニウム(PAC)は、アルミ系の凝集剤として工業用水や上水の処理に用いられ、安定した需要があります。

過酸化水素は、紙・パルプの漂白や食品の殺菌などに利用され、日本国内での需要は縮小していますが、土壌浄化などの環境用途での採用が広がっています。ケイ酸ナトリウムは土木建築や紙・パルプ向けに使用され、炭酸ストロンチウムはフラットパネルディスプレイや新エネルギー関連など、用途が多岐にわたります。

電子関連では、チタン酸バリウムがコンデンサー材料に使われ、スマートフォンやデジタル家電の普及により需要が増加しています。酸化チタンは主力の白色顔料のほか光触媒としても注目されており、化粧品分野でも採用が拡大しています。


無機材料は、触媒化学や次世代材料の研究において重要であり、メーカーは市場の変化に対応した戦略の強化が求められています。

ヨウ素について解説


ヨウ素は1811年にフランスの化学者ベルナール・クールトアによって発見されました。当時、海藻灰から硝石を製造する過程で、海藻灰に酸を加えると特有の刺激臭を持つ気体が発生することに注目し、その気体を冷却すると黒紫色の液体になることを発見しました。その後、フランスの化学者ジョゼフ・ルイ・ゲイ=リュサックが、この物質が新しい元素であることを確認し、発生した紫色の気体にちなんで「iode」と命名しました。日本語の「ヨウ素」はドイツ語の「jod(ヨード)」から来ています。

ヨウ素は、医薬品や殺菌剤、分析用試薬など様々な分野で利用されています。また、色素増感型太陽電池やレーザー技術の分野でも新たな需要が生まれています。特に、放射性ヨウ素¹³¹Iは医学や生物学の分野で広範囲に使われています。

1990年代に入って血管造影剤の需要が急増し、現在ではヨウ素の最大用途の一つとなっています。液晶偏光板向けの需要も増加しており、工業触媒や医薬品なども重要な用途です。これらの製品分野の需要は、特に中国やインド、東南アジアなどの新興国での生活水準向上に伴い、今後ますます拡大すると期待されています。

世界のヨウ素生産量のうち、約9割をチリと日本が占めています。日本では主に天然ガスとともに汲み出されるかん水から抽出され、チリでは硝石から生産されています。日本の千葉県は主要な生産地ですが、地盤沈下対策が課題です。

チリ産のヨウ素は世界中に供給されており、今後の需要拡大も見込まれています。日本の商社もチリ産に注目し、資本参加を通じて供給力の強化に努めています。

また、産学官共同での高付加価値製品の開発も進められており、「千葉ヨウ素資源イノベーションセンター」(CIRIC)が設立されました。この施設では次世代の太陽電池や新しいがん診断・治療技術の開発が進められています。また、ヨウ素の抽出効率の向上やリサイクル率の向上に関する研究も行われています。

カーボンブラックについて解説


カーボンブラックは、直径3~500nmの炭素微粒子で、材料の補強・強化や導電性、紫外線防止効果を持ち、ゴムや樹脂製品に広く利用されています。特に自動車タイヤ向けが主要な用途を占めており、市場動向は自動車産業に大きく影響されます。製法は主に「オイルファーネス法」が用いられ、芳香族炭化水素からなる油を高温で熱分解して生成します。

2022年の国内カーボンブラック需要は前年より減少し、輸出入ともに減少傾向にありました。しかし、生産性向上や再生可能エネルギーの利用が進んでおり、持続可能性への取り組みが強化されています。特に、再生可能原料の使用や「ISCC PLUS認証」取得が話題となっています。

一方で、カーボンブラックの原料供給は厳しさを増しています。原料油の供給量が減少傾向にあり、メーカー間での調達競争が激化しています。また、サプライチェーンにおける温室効果ガス排出量削減のため、近隣で生産された製品を好む地産地消の傾向が強まっています。

さらに、「2024年問題」として、輸送における労働時間規制の強化が物流に影響を及ぼすことが予想され、これも地産地消の動きを促す要因となっています。カーボンブラック産業は、こうした課題に直面しながらも、持続可能性を追求し続ける必要があります。

このコラムについて

このコラムは『ケミカルビジネス情報MAP2024』を要約したものを掲載しています。
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