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GHSの話をしよう② 証拠の重みづけ(WoE)の話

ごあいさつ

 こんにちは。化学品管理子(かがくひんかんりこ)です。

 「化学品管理をやさしく軽く」と言いながらこの連載では少し変わった順番でGHSの話をしています。前回はいきなり「つなぎの原則(Bridging Principle)」から始めました。順番が変ですね。今回は、教科書ではページを割いて説明しない話題から、今まで管理子が疑問に思ったことを書いていきたいと思います。全体像なんかは追い追いお話ししますので気長にお待ちくださいね。

 今日は、証拠の重みづけ(WoE:Weight of Evidence)」の話をします。GHSのセミナーなんかで名前だけ聞いたことがある、という方も多いのではないでしょうか。

GHSにおける危険有害性分類のコンセプト

 GHSにおける危険有害性分類はとてもシンプルです。

 「データを集めて」

 「内容を見て」

 「基準と照らし合わせて判断する」

 これだけです。

 現在では、化学工業として主要な化学物質については危険有害性の分類結果が公的機関によって公表されていますから、私たち事業者はそれを利用すればよい場面がほとんどです。一方で、公的機関による分類がされていない物質や、自社で独自の有害性試験を行っている場合等には、試験データをもとに自ら危険有害性の判定を行う場面が出てきます。

 ここで出てくるのが、

 「どのデータをどう扱うか」問題

 です。

 これを考えるための枠組みが「証拠の重みづけ(Weight of Evidence)」です。

証拠の重みづけ(WoE:Weight of Evidence)とは

 証拠の重みづけは、GHSのすべての危険有害性に使われるわけではありません。主に、健康有害性や環境有害性の一部で用いられる考え方です。

 ここでいう「証拠」は、いわゆる有害性試験の結果だけを指すものではありません。

  • 動物試験(GHSで定められている試験法含む)
  • 生体を用いない代替試験(ex vivo試験やin vitro試験)
  • ヒトでの疫学研究や症例報告
  • QSAR等コンピュータによる予測

これらの情報を、入手可能な範囲で集めて並べて評価し、全体としてどう判断するかを考えます。まず全部集めます。もう一度言います。全部です。すると複数の証拠の内容が必ずしも一致しないことがあります。都合の良いものだけ持ってくる、ではないんですよ。

 証拠の重みづけの考え方としてよく挙げられるのが、「ヒトでの証拠は重要な位置づけを持つ」という点です。ただし、個々のデータの質や信頼性も含めて総合的に評価することが前提となります。そのデータが十分に信頼できるものである場合には、健康有害性の判断において重要な証拠として扱われます。

 さて、証拠の重みづけで悩ましいのは、データが足りないときではありません。本当に困るのはむしろ、データがいろいろ出てきて結論が揃わないときです。ある試験では「有害性がある」とされ、別の試験では「有害性は認められない」とされる。あるいは、ヒトのデータでは影響が示唆される一方で、動物試験でははっきりしない。こうした「ばらばらな証拠」をどう扱うかが、証拠の重みづけの難しいところです。どちらのデータを採用するかで結論が変わってしまう場面も少なくありません。

ケース1 動物のデータからヒトへの有害性があると判断できない場合

 動物のデータで有害性が示されていても、その影響がどのような仕組みで起きているのか(作用様式・作用機序)がヒトに当てはまらない場合には、そのままヒトの有害性とは判断できません。

極端な例ですが、ある生物で起きた変化が、そのままヒトでも起きるとは限らない、ということです。

ケース2 直接のデータがなくてもヒトへの有害性があると考える場合

 ケース1とは逆に、ヒトでの直接的なデータがなくても、ヒトへの有害性があると考えられる場合もあります。例えば、ある化学物質を吸入して哺乳類で麻酔作用が見られるという知見があれば、ヒトにおいても同様の作用が生じると考えるのが自然です。吸入→肺での吸収→血液循環→脳への作用といった流れは、マウスとヒトで大きくは変わりません。一方で、カニのような水生生物では、物質の取り込み方や神経系の仕組みがヒトとは異なるため、そのままヒトの有害性の証拠とはなりません。

まとめ-「証拠の重みづけ」は「ヒトに当てはめられるか」という観点で考える

 証拠の重みづけとは、単にデータの多さや種類で判断するものではなく、その内容がヒトに当てはまるかどうかを見極める考え方です。動物で見られた影響でも、そのままヒトに当てはまるとは限らず、逆に直接のデータがなくても推定できる場合もあります。個々の証拠をどう位置づけるかを考えることが、GHSにおける分類の本質といえるでしょう。

化学品管理子
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