
GHSの話をしよう③ GHSがあると何がいいのか
ごあいさつ
こんにちは。化学品管理子(かがくひんかんりこ)です。
さて、この連載ではGHSの話として「つなぎの原則(Bridging Principle)」「証拠の重みづけ(WoE:Weight of Evidence)」から書き出しました。これまでの管理子の経験の中で、このあたりをこういうものだよ、とはっきり言ってくれる人がいなかったので、なんでこんな独特な概念なんだと思っていたところだったんです。
さて、今日は趣旨を戻して「GHSがあると何がいいのか」という話をしたいと思います。GHSの導入によって、製造者にとっては化学品のGHS分類という手間が加わりました。ラベルに赤枠を印刷することになり、SDSの様式対応も(現在はSDSはメールや電子データのダウンロードで交付することも一般的にはなりましたが)必要になりました。輸入者にとっては海外事業者提供のSDSの和訳だけでは済まなくなりました。業務は大変になりましたが、では、メリットは何だったのでしょう?
GHSがなかった時代、世界ではどんなことが起きていたか
GHSが導入される前から、化学品の危険性やその安全な取り扱いについて文書にまとめる、MSDS(製品安全データシート)の概念はありました。しかし、MSDSに記載すべき内容の選択は化学品の提供者にゆだねられていて、提供者によって内容はまちまちでした。特に化学品の混合物については、その配合組成自体が営業秘密情報であることが多いこともあり、また各構成成分に由来する有害性を評価する統一見解がなかったことから、化学品の有害性がサプライチェーンを通じて必ずしも伝達されないことがありました。多くの化学物質は混合物の形で使用されますが、使用者に有害性情報が届かないことがあった、ということです。
GHSがなかったら世界はどうなっていたか?
そして、今日では化学品のサプライチェーンは国境を越えるということも忘れてはいけません。WTOのレポート1)によると化学品の貿易はGHS導入前の1990年は2,960億ドル、2000年は5,660億ドルとほぼ倍増していました。2024年の世界の化学品の輸出総額は約2.9兆ドル2)です。このふたつのデータは取り方がちょっと違うのですが、化学品が国境を越えて動く規模は、この四半世紀で大きく拡大していることはわかります。

極端にいえば、もしGHSのような共通の仕組みがなければ、企業は国や取引先ごとに大きなコストをかけて有害性情報を伝えるか、あるいは、使用者が十分な情報を得られないまま化学品を使う場面が残ってしまったかもしれないということです。製品に付随する情報伝達にコストがかかれば、それだけ化学品の貿易を圧迫します。一方で、有害性情報が不明なまま有害な化学物質にばく露されうる状態では、化学物質の安全な使用は広がりません。結果として、化学工業の発展そのものの妨げにもなっていたはずです。
GHSのメリット
GHSでは、「化学品の危険有害性の分類方法」と「情報伝達の方法(SDSとラベル)」が標準化されたモデルとして定められました。では改めて、GHSのメリットを整理してみたいと思います。
1. 化学品の使用者にとっては
危険有害性が見えやすくなったことです。
どのような危険有害性があるのか、どの程度注意すべきなのかが、分類、絵表示、注意喚起語、危険有害性情報といった共通の形で示されるようになりました。SDSやラベルの様式がそろうことで、受け取る側も「どこを見ればよいか」が分かりやすくなります。
2. 化学品の提供者にとっては
何をどのように伝えるかの枠組みができたことです。
GHSがあることで、分類基準、ラベル要素、SDSに記載する項目が整理されます。もちろん専門的な判断が不要になるわけではありませんが、提供者ごとに情報の出し方が大きくばらつくことは減ります。その結果、必要な情報が伝わらないことによる事故や災害のリスクを下げることにつながります。
3. 国や地域を越える取引にとっては
国や地域を越えて、危険有害性情報を共有しやすくなったことです。
化学品は、原料や混合物として、またそれらを用いた製品の一部として、国境を越えて流通します。GHSにより、分類や表示、SDSの考え方が一定程度そろったことで、従来製造者(とその国の政府)だけが持っていた有害性情報を、サプライチェーンの中で整理された形で利用しやすくなりました。
まとめ- GHSはなにがGlobalで何がHarmonizedだったのか
GHSは、単に各国の業務の仕組みをそろえるためだけのものではなく、化学品が国境を越えて動く時代に、危険有害性情報をできるだけ共通の形で伝えるための仕組みだったと捉えることができます。世界中で同じSDSを作るための仕組みではなく、危険有害性を伝えるための共通言語でした。
さて、情報を伝えることが大切というと、「では、SDSにはなんでも詳しく書けばよいのか」という話になりますが、これはまた別の問題です。次回以降で考えてみたいと思います。


