国内の素材各社が新型コロナウイルスの感染拡大にともなう衛生用品や食品ニーズへの対応を強めている。ドラッグストアなどではマスクや手指用消毒液の品不足が常態化し、全国的に外出自粛要請が強まるなかで宅配サービス向け食品容器も需要が増えている。各社は増産体制を組むなどして供給責任に応える。

 マスク素材では日清紡ホールディングスがグループ会社を通じ、インドネシアでマスク用ガーゼ生地の生産を開始。最大200万枚分の生地を生産する。国内でも子会社の日清紡テキスタイルの徳島事業所(徳島市)でもマスクの耳掛け用テープの生産能力を倍増の年約6億枚分に引き上げる。

 国内で消費されるマスクの大部分が輸入品とされる。新型コロナの感染拡大にともなう品不足から国内メーカーもマスクの増産に動いており、マスク素材の需要が高まっている。

 三井化学は子会社サンレックス工業(三重県四日市市)の工場で1月にメルトブローン不織布の生産能力を従来比1・5倍に増強したが、早くもフル稼働に達した。自動車シートや農業用シートなどの産業用途に使われる同社の不織布だが、マスク向けにも生産を拡大。東洋紡はマスクや除菌ウェットティッシュ用途に使われる不織布原料のポリエステル短繊維について、生産拠点の岩国事業所(山口県岩国市)でフル稼働で供給責任に対応している。

 旭化成も国内でマスク用不織布の生産を新型コロナの感染拡大前に比べて2倍に引き上げた。東レはマスク用不織布の生産体制の拡充などで供給責任に応える。三井化学はマスクの立体形状を保つ鼻当て部分に使われるノーズクリップと呼ばれるポリオレフィン素材の国内最大手としてフル生産で対応している。

 マスクやマスク用不織布の需要は中国でもいぜん高く、マスク用途に引っ張られる形で紙おむつなど衛生材料に使われる不織布の不足が顕著になっている。同国で衛生材料向けの原綿や不織布を生産するJNCは一部で操業時間を延長し、高まる需要に応えている。

 国内では新型コロナの検査や医療現場で使う手袋や防護服も需要が増えている。ユニチカは防護服用不織布の需要増に対応。検査用手袋の素材は天然ゴムやニトリルゴム(NBR)が主流とされ、NBRを生産する日本ゼオンは手袋向けの引き合いが強まっているという。

 NBRの原料となるアクリロニトリル(AN)を生産する旭化成によると、医療用手袋向けのAN需要は新型コロナの発生前から活発で供給に占める同用途のシェアは高くなっていたという。「(医療用手袋の)社会的重要性の高さに鑑みて今後の顧客側の需要増に十分に対応できるよう体制を整えていく」(旭化成)構えだ。

 消毒液などに使われるイソプロピルアルコール(IPA)は国内ではJXTGエネルギーやトクヤマ、三井化学が生産する。三井化学はIPAを大牟田工場(福岡県大牟田市)で生産するが、フル稼働でも需要に追いつかない状況という。同社は消毒液のボトルに使われる耐薬品性の高い高密度ポリエチレン(HDPE)も増産対応を行っている。

 マナックは2020年に入り、福山工場(広島県福山市)で抗菌スプレーなどに使われる抗菌・坑ウイルス剤「Etak(イータック)」の生産能力を10倍に引き上げた。エーザイが販売する一般用抗菌スプレー用途や自社ブランドの業務用抗菌スプレーで原料需要の高まりに応える。クラボウも抗菌・坑ウイルス製品の引き合いが強いという。AGCや東亞合成など次亜塩素酸ソーダを生産する国内各社も消毒用途の需要増に対応している。

 医薬品の分野では、デンカが新型コロナの治療薬で期待される坑インフルエンザ薬「アビガン」の原料供給として、青海工場(新潟県糸魚川市)で来月からマロン酸ジエチルの生産を再開する予定だ。政府の要望を受けて、休止中のプラントを再稼働させる。

 国内でも新型コロナの感染者の拡大を受けて今月7日に緊急事態宣言が発令された。外出自粛にともなう「巣ごもり消費」が増え、宅配サービスに取り組む飲食店が増えるなかで、持ち運びに使う食品容器の需要が増えている。このため食品容器大手のエフピコは、食事の宅配需要に対応する専用の食品容器を開発中だ。

 ほかにも、一般消費者などでの衛生ニーズの高まりを受けて、関西ペイントは室内向け感染対策製品を拡充している。

〔素材各社が衛生用品・食品容器ニーズ対応〕

デンカ
抗インフルエンザ薬「アビガン」の原料供給でマロン酸ジエチルの生産を再開

マナック
抗菌・坑ウイルス剤の生産能力を10倍増

日清紡HD
マスクの耳掛け用テープの生産能力を倍増
インドネシアでマスク用ガーゼ生地を生産開始
自社製マスクの販売を開始

東レ
マスク用不織布の生産体制拡充で供給責任に対応

旭化成
マスク用不織布の生産を2倍以上に引き上げ

三井化学
不織布の設備を増設、マスク向けにも生産を拡大
耐薬品性の高い消毒液ボトル向けHDPEの生産拡大
マスクの形状記憶ポリオレフィン材最大手としてフル生産中

東洋紡
マスク、除菌ウェットシート用不織布原料の需要増に対応

ユニチカ
防護服用不織布の需要増に対応

クラボウ
抗菌・坑ウイルス製品の需要増に対応

三井化学など
消毒剤向けイソプロピルアルコール(IPA)の需要増にフル生産で対応

日本ゼオン
検査用手袋向けニトリルゴム(NBR)の需要増に対応
AGC、東亞合成など
次亜塩素酸ソーダの消毒用途の需要増に対応

エフピコ
食事の宅配需要に対応する食品容器を開発中

関西ペイント
室内向け感染対策製品を拡充

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