田辺三菱製薬の上野裕明新社長は本紙の取材に応じ、社外連携を活用して最先端医薬に事業機会を広げる計画を明らかにした。筋ジストロフィーなどの治療に用いる核酸医薬は日本触媒、血友病などの遺伝子治療薬はベンチャーの遺伝子治療研究所(神奈川県)とそれぞれ製造面で提携すると話した。カナダの子会社を通じて新型コロナウイルスワクチンの治験を8月に開始し、海外承認品を日本でも特例承認する仕組みも使い「日本にもなるべく早く供給したい」と語った。

 田辺三菱は2月までに三菱ケミカルホールディングス(HD)の完全子会社となり、新たなスタートを切った。4月1日に就任した上野新社長は事業面や会社共通基盤、デジタル技術で相乗効果を目指す考えを示したほか、「これまで十分でなかったグローバル展開力や規模についても積極策を打てる体力になった」と語った。

 三菱ケミカルHDは2030年に売上収益を6兆円(18年は3・9兆円)に拡大する構想を2月に公表した。上野新社長は他のグループ事業を加えたヘルスケア部門全体の規模について1兆円が想定されるとの見解を示した。

 一方、インフルエンザワクチンの開発を中止し、提携先ノバルティスとの特許係争も収束が見えず、田辺三菱の収益環境は厳しい。23年度に売上収益5000億円超(19年度3798億円)、コア営業利益1000億円超(190億円)を掲げるが、上野社長は21年度から5カ年の新中期計画を策定し、「現実的な事柄を踏まえ、新たな目標を11月にも示したい」と述べた。

 新中計では筋萎縮性側索硬化症(ALS)薬「ラジカヴァ」の経口剤やパーキンソン病治療薬など新薬を米国に投入し、海外成長を加速させる方針だ。発症予防や診断、重症化予防、寛解など治療の前後にも社外連携を活用して事業領域を広げるビジネスモデルを国内外で構築していくとも話した。

 創薬戦略についてはすでに基盤のある「低分子」「抗体」を軸にし、核酸医薬、遺伝子治療、ワクチン、抗体薬物複合体(ADC)に発展させていく計画だ。いずれも製造では社外と提携し、核酸では日本触媒、遺伝子治療では遺伝子治療研究所、ADCは英製薬アストラゼネカの子会社メドイミューンと連携する。

 新型コロナワクチンは、子会社の加メディカゴを通じて開発中。8月に第1相臨床試験を開始する。供給開始は欧米製薬大手に続く時期になるとみているが、より早期の実用化が可能か、日本の当局とも協議していく。ワクチンの効果を高めるアジュバント(免疫増強剤)の活用も検討する。

上野社長

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