国内製薬会社が新型コロナウイルス感染症の治療薬開発に相次ぎ名乗りを上げている。日本新薬は強みの核酸医薬を用いた治療薬開発に乗り出し、エーザイは適法に開発を中止した化合物で有効性が見いだせたため、6月に治験に着手する。武田薬品工業も開発中の高度免疫グロブリン製剤の治験を7月に始めるほか、既存製品からのドラッグ・リポジショニングの可能性を探る。

 日本新薬は変異するコロナウイルスなどに対しても効果が期待できる核酸医薬を創薬する。「すでに開発に着手しており、2020年内、または21年3月までに候補物質を見いだしたい」(前川重信社長)考え。感染症は重点領域ではないが、最先端技術を駆使し社会的使命を果たす。

 日本新薬は次世代薬の核酸医薬技術に強みを持つ。「世界で最も長いRNA(リボ核酸)を作り出せる」(同)など長鎖RNAを合成する技術に長ける。長鎖RNAの新型コロナウイルスは変異しやすいが、「変異しにくい複数の領域を標的とすることで、変異するウイルスも死滅させられる」(同)。開発を目指すのは新型コロナウイルス、同ウイルスからの変異型、さらには今後出現する可能性がある未知のコロナウイルス感染症にも適用できる永続的なコロナウイルス治療薬だ。

 核酸医薬だけでなく、販売中の肺動脈性肺高血圧症治療剤「ウプトラビ」と、米国で臨床試験中の骨髄線維症治療剤「NS-018」のドラッグ・リプロファイリングも進めている。ウプトラビは新型コロナで重篤化すると発生する可能性がある血栓症を抑えられるかを調べる。2剤についても効果があると認められれば「他社と共同で臨床試験を始めたい」(同)としている。

 エーザイは、新型コロナの重症患者の多くで発生し、重い肺炎を起こす過剰な免疫反応のサイトカインストームを抑制する新薬候補「エリトラン」について6月に国内外で治験を開始する。順調に進めば20年内に試験結果を得られる見通しで、承認申請に進む可能性がある。新型コロナ流行の第2波、第3波を見据えて治療選択肢の充実に寄与したい考えだ。

 エリトランは同社が重症敗血症の治療薬として過去に開発していた経緯がある。11年当時は有用性を証明できず、開発を中止した。エリトランはサイトカインストームの原因となる生理活性物質が生み出される経路を最上流でおさえる働きがあり、新型コロナに対しては「一剤で一気に肺炎の重症化を抑制できる可能性がある」(内藤晴夫CEO)という。

 日本では治験施設の調整に入っており、「1日でも早く治験を始めるため治験薬の品質確認を急いでいる」(同)。治験薬は400症例分を準備できるとし、今年末までに治験結果を得られる見通しだ。

 武田薬品工業も、開発中の高度免疫グロブリン製剤の治験を7月に開始する。日米欧で実施し、早ければ年内の申請を目指す。新型コロナウイルス感染症の回復患者から採取した血清を活用し、治験用の「ロット製造もスタートした」(クリストフ・ウェバー社長)。

 同感染症の克服に向け、既存製品や開発品によるドラッグ・リポジショニングも進めている。優先度の高い開発品としてすでに4品目を絞り込んでおり、その他の開発品とともに検証していく。

 併せて、将来の流行に備えるための研究にも取りかかった。ウイルスの侵入、複製、宿主細胞調節不全、急性呼吸急迫症候群(ARDS)/臓器不全の4段階で検討を加える。社外との積極的な連携の下、同ウイルスに関するデータや情報を共有化する。開発や治験設計に役立てることも目指す。コンソーシアム化も図り、評価活動を進める。

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