新型コロナウイルスの流行により、3月以降は国内塗料需要も深刻な影響を受け始めている。塗料業界は平成の不況期に2度にわたって大幅な需要減退を経験。これら過去の事例との比較を通じ、今回の状況はどのような分析ができるか。米原洋一元関西ペイント取締役(現関東塗料工業組合事務局長)に今後の見通しを聞いた。

■足元の影響をどうみますか。

 「2019年度の生産量は、消費増税など下半期の他のマイナス要因と併せて対前年比数%減にとどまるだろう。しかし全分野での需要減が年内いっぱいは続き、20年度は20%以上のマイナスとみる。今回の特殊性は外出自粛をともなう点だ。消費マインド冷え込みの影響は、まず自動車・住宅など高額かつ対面販売に依存する消費財から深刻化している」

■分野別の概況は。

 「主要分野は自動車用を含む工業用と建築用に分かれる。中小塗料メーカーを会員とする関東塗料工業組合では、2月以降3回の業況アンケートを実施。3月半ばから自動車用への影響が顕在化しており、プラスチック・金属部材用塗料の需要減が大きい」

 「建築用への影響は4月以降本格化しているとみる。外壁・屋根を中心とする住宅分野の需要は補修が8割、新築が2割。主力の補修分野は長期的な需要の安定性に富むが、消費増税のあとに追い打ちを受けた格好だ。リフォーム工事の延期などで影響が継続するだろう。近年内需を牽引してきた都心部のビル建設向けでも4月以降の影響を懸念。ゼネコン各社では7日の緊急事態宣言の発出以降、原則として工事を取りやめる動きが拡大。一部では再開の動きもあるが、塗料出荷の停滞は避けられない。一方、橋梁・高速道路など公共系は唯一堅調とみる」

■過去の事例と比べた特性は。

 「国内塗料生産量は90年の219万トンをピークとして、以後はこのレベルを回復していない。バブル崩壊後は、短期的な景気変動にともなって山と谷を繰り返した。一方、リーマン・ショック後は09年に148万トンまで急減してから150万~160万トン台と変動幅が少ない。リーマン・ショックそのものの影響は10年には沈静化したものの、低位安定となった格好だ。コロナ禍はこれほどの変化をもたらさないとの観測もあるが、楽観視はできず再度の長期停滞を見据える必要がある」

 「重要なポイントは、過去2度の変化点周辺で産業・人口構造の転換が起きたことだ。塗料関連では、90年代に自動車など製造業の海外移転が加速。また窯業系建材の普及で新築外壁向けの塗装が大きく減少した。元来内需は分野別のバランスが良好だが、人口減による需要減退は避けられない。これらを背景に、10年代には塗料大手2社を中心にグローバル展開を強化。国内中心だった収益構造を改めた」

■塗料大手の今後の課題は。

 「各社のグローバル展開は、少なくとも拠点確保の面では一段落ついた状態といえる。今後の課題は統一的なデータ運用によるマネジメント技術の向上だ。原料調達から製造・販売、事務系にいたるまでのデータ運用を一元化するもので、シャーウィン・ウィリアムズなど海外大手はこの分野で先行。間接費用の削減と大規模なディスカウント調達を可能にしている」

 「現状では緊急事態宣言への対応をはじめ、内勤部門を中心に在宅勤務がある程度普及。これを機にデータ運用の重要性が認識され、ERP(企業資源計画)本格運用の契機とするのが望ましい。海外子会社を含めて統一指標で評価する取り組みは、グループ統合後の各社間シナジーの発揮にも欠かせない施策といえる」(聞き手=兼子卓士)

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