【シンガポール=中村幸岳】新型コロナウイルス感染拡大阻止のため都市封鎖が実施されている東南アジア諸国では、食品・飲料の包装に使われる高機能ポリオレフィンやPET樹脂の需要が堅調に推移している。外食が軒並み禁止されたことで食事の宅配・持ち帰りが増え、飲料水用ボトルの引き合いも強い。包材に使われる合成樹脂の生産設備はおおむね安定操業を継続。一方、樹脂加工や包装材メーカーは、従業員不足もあって工場稼働率を落とさざるを得ず、樹脂包装の供給不足が懸念される国もある。

 域内では部分的実施を含めマレーシアやフィリピン、シンガポール、タイなどで都市封鎖が続いている。10日にはインドネシアの首都ジャカルタでも部分的ロックダウンが強化された。こうした国々では食事の宅配や持ち帰り用に加え、スーパーマーケットやコンビニエンスストアでの商品販売用でも包装材料の需要が強い。食品包装用ポリオレフィンフィルムの世界大手・サイエンテックス(マレーシア)などは工場稼働を継続し需要に応えている。

 域内樹脂メーカーも安定生産を続け人々の生活を支える。シンガポールで高機能ポリエチレンを生産するプライムエボリュー・シンガポールの山本徹也社長は「外出禁止令もあり、長期保存に適した高バリア性の包材需要は引き合いが安定している」と話す。

 同じく高バリア性PEを得意とする米ダウやエクソンモービルも、本国や域内から製品を供給。ダウはサウジアラビア工場からの輸入を増やしているようだ。

 東南アジアで生産される包材用樹脂は中国にも多く輸出されている。中国では経済活動が徐々に再開され、3月の同国購買担当者指数(PMI)は52(前月は35・7)と、景気判断の目安となる50を上回った。スーパーの売り上げも回復しつつあり、合成樹脂の引き合いは強まるとみられる。

 飲料水ボトル用PET樹脂も堅調。同樹脂の生産を手掛けるタイPETレジンの伊藤厚実副社長は「外出が制限されるなか買い置きせざるを得ない家庭が多く、需要は底堅い」と話す。全体量は少ないものの、消毒液用ボトル向けでも引き合いが強い。

 一方で懸念材料もある。厳しい都市封鎖を実施しているマレーシアやフィリピンでは通関業務も最低限の人員で行われているため物流が停滞。樹脂の発注がキャンセルされるケースがあるという。

 また各国政府は、合成樹脂を含む石油化学製品の生産設備については都市封鎖発令に先立ち操業継続を認めたが、川下のフィルムや樹脂加工業は個別に当局の認可が必要だったり、生産停止後に生産再開が認められるケースがある。従業員不足もあって稼働率は安定していないのが実情。顧客の包装メーカーが生産が継続していても、サプライチェーンにボトルネックが生じているもようだ。

 樹脂バッグなどの輸入依存率が高いシンガポールでは包装の供給不足が懸念されている。現地テレビ局の報道によると、食品宅配やホーカーセンター、レストランからの持ち帰りが増えた結果、包装在庫が減少。政府はエコバッグや食品容器の持参を呼びかけている。

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