新型コロナウイルスの影響で増える消毒・除菌ニーズ。人の手指などの消毒にアルコール消毒液が多用される一方で、ドアノブや手すりなど身の回りの接触面の消毒に対してはアルコールよりも次亜塩素酸ソーダ(次亜塩素酸ナトリウム)の方が有効性が高いとされる。厚生労働省も感染予防の啓発資料で使用を呼びかけている。ただ、金属部分を腐食させることがあるほか、素手で触れると手荒れの原因になる場合があり、使用場面によってはこうした心配のない次亜塩素酸水の活用が広がっている。
 普段は浄水場などの消毒・殺菌に使われる次亜塩素酸ソーダ。一般消費者には「ハイター」「ブリーチ」などの商品として日常でも使われている。新型コロナウイルス対策として、濃度0・05%に薄めて拭き取り用に使うことが推奨されている。次亜塩素酸ソーダを取り扱う企業の関係者は「使い方に関する問い合わせが増えている」と話す。
 現状ではまだ本格的な需要の波は来ていない模様。ただ、最終商品に小分けする会社では容器不足が生じているところもあるようだ。
 品不足のアルコール消毒液や使い方に注意が必要な次亜塩素酸ソーダに代わる選択肢として広がりつつあるのが次亜塩素酸水だ。酸性電解水とも呼ばれ、専用装置で原料となる塩酸や食塩水を電気分解して生成する。
 医療機関や介護施設、一般家庭などで使われる専用装置の多くは微酸性次亜塩素酸水を生成する。pH値は5・0~6・5、有効塩素濃度は10~80ppmで、次亜塩素酸ソーダより低濃度でもウイルスに有効。
 ノロウイルスやインフルエンザウイルスへの効果が実証されている。新型コロナウイルスに対する有効性はまだ実証されていないが、電解水の研究・普及の促進を行っている機能水研究振興財団の発表によると、新型コロナウイルスはインフルエンザウイルスと同様にエンベロープと呼ばれる膜状の粒子構造を持つことから、次亜塩素酸水が有効性を示すと推察できるという。
 次亜塩素酸水は除菌するとすぐ水になるため、目や口に入っても害はない。うがいもでき、手荒れしないといった特徴を持つ。こうした利便性から、生成装置の受注数は「通常の3~5倍ほどに増えている」と日本電解水協会の川田勝大会長(日本エコ・システムズ社長)は話す。
 一方で普及にはハードルもある。次亜塩素酸水は食品添加物の殺菌料としては認められているが、薬事法の認可は受けていないため、消毒や殺菌効果をうたうことはできない。認可には「膨大なエビデンスデータが必要。コストや時間がかかる」(川田会長)ため、申請に各社が二の足を踏んでいる状態だ。
 公共の場では次亜塩素酸ソーダと希塩酸を希釈混合しpH値を中性に調整した製品の活用も進む。同製品を「次亜塩素酸分子水」として販売する大阪油脂工業(兵庫県尼崎市)は、病院や介護施設、学校のほか自治体向けにも供給している。通常この時期は受注後翌日には出荷できるが、現在は納入が一カ月後となる。フル稼働で生産しているが、20リットル入るバッグインボックスタイプの容器が不足気味となっているという。(松井遥心)

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