新型コロナウイルス感染の終息と社会経済活動の正常化に向けて、有効なワクチンの実用化が待ち望まれている。ウイルスのゲノム情報が初めて公表されてから約4カ月経ち、米中を中心に新型コロナワクチンの開発競争が本格化。最も開発が進むワクチンは、早ければ今秋にも供給が始まる。通常、ワクチン開発に数年間はかかるとされるが、前例のない、史上最速のスピードで開発が推し進められている。

■米英中が開発をリード

 世界保健機関(WHO)によると、ヒトに対する臨床試験が行われている新型コロナワクチンは全世界で10件ある(5月22日発表)。最も進んでいるのが、米国のモデルナ、中国のカンシノ・バイオロジクスが開発するワクチンだ。モデルナが3月16日に1番手で臨床試験入りすると、翌日にはカンシノも試験開始を発表。今月18日にモデルナが同試験の速報結果を発表し、カンシノも同22日に試験結果を論文発表するなど、米中が競り合うように開発が進められている。

 両社に続く「1番手グループ」に浮上したのが、英オックスフォード大学と英アストラゼネカ(AZ)が共同開発するワクチン。最初の臨床試験入りは4月後半とやや出遅れたが、同月末にAZが開発に加わってから一気に進展。米国保健福祉省の米国生物医学先端研究開発局(BARDA)から億ドルの巨額支援が決まり、後期段階の臨床試験を開始した。

■自国優先へ囲い込み

 米政府が英国企業にも大型投資する狙いは、「自国ファースト」でワクチンを大量確保するため。AZは9月に英国、10月に米国でワクチンを供給し始める計画だが、米国には英国向け(1億本)より多い3億本をまず供給することを約束している。BARDAはAZのほかモデルナ、米ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)にも数億ドルを拠出する。3社とも来年にかけて年産10億本レベルを準備し、優先的に米国から供給される見込み。

 中国では、カンシノを含め少なくとも4つのワクチンが臨床試験中。各社の製造能力、供給時期や量などはほとんど明らかになっていない。だが国際展開も見すえて開発されるとすれば、欧米との開発競争は一段と激しくなりそうだ。米国食品医薬品局(FDA)のスコット・ゴットリーブ元長官は米紙ウォール・ストリート・ジャーナルへの寄稿(アメリカはワクチン競争に勝たねばならない)で、「最初にワクチン開発に成功した国が、最初に経済とグローバルな影響力を回復する」と述べている。

■日本は7月に治験入り

 日本では、アンジェスのワクチンが1番手で治験入りしそうだ。創薬ベンチャーである同社は臨床開発や製造などの機能がないため、関連企業と相次ぎ提携。これまでに日系8社などと手を組み、臨床試験から薬事、製造までカバーした「アンジェス連合」の開発体制を構築している。最初の第1相試験は7月から大阪大学医学部付属病院などで行い、良好なデータが得られれば今秋にも大規模治験へ移行。現時点で同社は来春頃の供給開始をめざしているが、試験の進捗や薬事対応などによっては、最短で年内の実用化も可能という。

 製薬大手では、塩野義製薬が年内の治験開始、年度内の実用化をめざして開発を本格化。先ごろ買収したUMNファーマの基盤技術を活用してワクチンを開発した。明治ホールディングスが買収したKMバイオロジクスも不活化ワクチンの開発に着手。UMN、KMバイオは、数年前に政府が助成した細胞培養型パンデミック・ワクチンを開発するプロジェクトに参画した経緯がある。同プロジェクトに参加した武田薬品工業も、ワクチン製造設備がある光工場を活用した製造協力などを検討している。

 米国と比べると規模は劣るが、日本政府も開発支援を拡大している。当初は今年度第1次補正予算でワクチン開発予算として100億円を計上したが、第2次補正予算では、生産支援も含めて約2000億円を追加。ワクチンの製造設備を新たに立ち上げる事業者を5社ほど募り、各200億~300億円を助成する。臨床試験と並行して量産体制を整え、いち早く国民にワクチンが行き渡るようにする考えだ。

 

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