英グラクソ・スミスクライン(GSK)は10日、ワクチン事業のメディア向け説明会をオンライン開催した。同社は100年以上の歴史を持つワクチン大手だが、新型コロナウイルス感染症では自社主導のワクチン開発は行っていない。強みのアジュバント(免疫増強剤)技術を他社に提供するかたちで、多くのワクチンの実用化に貢献する方針だ。過去に開発したパンデミック・ワクチンと同じアジュバントを使い、来年には10億接種分を供給する。

 新型コロナワクチン関連でGSKは、仏サノフィ、中国企業2社、豪クイーンズランド大学、ワクチンの官民連携パートナーシップ「感染症流行対策イノベーション連合(CEPI)」などとの提携を発表。いずれもGSKはアジュバント技術を提供するパートナーだ。同社でワクチン事業の研究開発ヘッドを務めるエマニュエル・ハノン氏は説明会で、「われわれの戦略は、たった一つのワクチンではなく、いくつかのワクチンを実用化できるように、さまざまなな提携を推進することだ」と語った。

 同社がアジュバントを重視するのは、パンデミックのように短期間で、大量にワクチンが必要な場合にとくに有効だからだ。1接種当たりに必要な抗原量が少なくすむため、1バッチで作れる接種量を増やせる。ハノン氏によると、過去に開発した新型インフルエンザ(H1N1)ワクチンでは、本来なら1ワクチンにつき抗原90マイクログラムが必要だが、アジュバントを添加することによって抗原量を3・8マイクログラムに減らせた。

 新型コロナワクチン向けのアジュバントを来年までに最大10億接種分生産し、提携先に供給する計画だ。同社は複数のアジュバント・ポートフォリオを保有しているが、今回使うのは新型インフルワクチンにも使われた、スクアレン系のアジュバント「AS03」。カナダと欧州の工場で増産する。ベルギー工場のヘッドを務めるラッセル・サースク氏によると、稼働シフトを増やすことで対応できるとみており、大規模な設備投資は不要という。

 同社の本拠地・英国では、英オックスフォード大学が創製したアデノウイルスベクター型のワクチンの開発が進んでいる。英アストラゼネカ(AZ)が共同開発相手となり、今秋にも英米で供給を始める計画だ。同じ英国企業でワクチン大手であるGSKがパートナーとならなかった理由についてハノン氏は、「新しい技術で、まだワクチンとして実用化された実績がない」ことなどを挙げた。「新しい技術にかけるか、長年の実績がある技術を生かすか」という選択肢のなかで、同社は20年来の歴史がある独自のアジュバントを生かすことにした。

 WHO(世界保健機関)によると、世界で130件以上の新型コロナワクチンが研究開発され、10件が臨床試験まで進んでいる。ハノン氏は、「この状況を『競争』とみるべきではない。アンメット・メディカルニーズを満たすためには、複数のプレーヤーが必要だ」と語った。

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