●…新型コロナ拡大の前後で、世界の変化をどうみているか。

 「新型コロナが起きる前から世界の経済状況は悪化していた。それにコロナウイルスが輪をかけて影響を及ぼしている。自動車や鉄鋼には相当影響が出ており、今までとは違って需要が減退するのではないかという不安がある。自動車産業も鉄鋼業も裾野が広いので、影響は今後出てくるだろう。化学はとくに国内で実際に影響が出るのは3カ月から半年後なので、これからの状況をみないとなんともいえない」

 「海外は、需要が落ちていることもあるが、外出禁止になったケースもあり、(当社グループでは)4月ぐらいまでは生産を止めていたところもある。5月下旬ぐらいから生産が戻って来ている傾向にあるが、今後末端の需要がどう動くかというのを非常に懸念している。4~6月の売り上げは相当落ちるのではという見方をしている。問題は収束がいつになるかだ」

 「世界のトレンドのうち、環境問題は一歩引いた状況になっている。ただ、継続して対応していかなければならない問題なのでこれで落ち着いたわけではなく、数値目標や対応方法も含め今までの延長線上で進めていく必要がある」

●…企業としての事業方針に変化は。

 「基本的な事業方針を変えるつもりはない。今回は売り上げの減少にどう対応していくかが課題。4月時点の今後の見込みとしては、数量減は仕方がない。あとは収益をどう確保するか、落ち込みをどうミニマイズできるかがポイントではないか。実際に数量、需要は落ちている。もう一つは海外市況が軟化傾向で走っている。収益にも影響してくるだろう」

 「原燃料も大きく変動している。変動した部分に対して当然、需要家からは価格調整に関する依頼が舞い込んでくるので、どう対応していくかが今後の大きな課題になる」

●…事業別の状況は。

 「海外はすでに影響が出ているので、どちらかというと回復傾向に向かうと見ている。クロルアルカリに関してはウレタンの数量減がある。それと市況の下落についてはすでに化学品で影響が出ている。石油化学セクターは今のところ、若干の影響は受けているが大きな減少につながっていない。ただし、価格に関してはこれから交渉になる。海外拠点について具体的にみると、中国では瑞安のウレタン工場が稼働を停止している。安全性を検証してから再稼働となると7月になるかと思う。一方、広州の塩ビ拠点は生産調整はしているが稼働している。3、4月は海外で影響が出たが、5月の中下旬から他国の拠点は動き始めている。国内の影響はこれからだと思う」

 「ハイシリカゼオライトは(主な需要先の)自動車が落ちているので、販売調整せざるを得ない。バイオに関しては引き続き順調で、研究開発では新型コロナの検査キットと抗体検出試薬の開発を始めている。感染の第2、第3波の発生を考えると注力しておきたい。ジルコニアは大きな影響は受けてないが、歯科用は今歯医者に行く人が少ないのでその影響が出てくる」

●…勤務形態など社内でも変化があったと思うが、どのような対応をとったのか。

 「目に見えて大きいものは働き方改革。不要不急の外出自粛要請で、当社も5月までは出社した社員は全体の2割で、8割は在宅勤務。(緊急事態宣言の解除で)少し緩和されたことを受けこれを5割まで戻そうと動いている。今後実際にどういう働き方にするかは、社内で検証する必要がある。ITの遅れによって仕事が滞っている企業もあるようだが、当社は今のところ製造、販売をみても順調にいっている」

 「ニューノーマルと呼んで世の中が変わるといわれているが、個人的には景気の落ち込みを早く元に戻さないといけないと考えるので、(勤務形態などを)まずは元に戻して、国民の不安を取り除いてからどうあるべきかを考えるべきではないか」

●…テレワークを使い出社人数が2割でも会社は機能した。今後人員配置などは変わってくるのか。

 「一足飛びに今の状態を継続するような体制を作ることは難しいのではないか。人事部門には、今回の在宅勤務でみんながどう感じているのか意見を全部収集してもらう。それによってできることとできないことを区別をしていかないと」

●…事業への投資は厳選して圧縮することになるのか。

 「投資は続ける。5月に銀行から600億円を借り入れたが、これはあくまでも支払いを遅延しないようにという資金繰りの観点から手元資金を厚くした。この3月末に実質無借金経営になったことで、昔に比べると相当楽になっている。これまでM&A(合併・買収)を含めて(大きな投資は)何もできなかったので、手元資金はある程度持っている。中期経営計画の通常設備投資枠1400億円とM&A枠300億円は引き続き計画通りに進めていく」

●…コロナ禍で自国第一主義が助長される可能性も指摘されている。サプライチェーンをどう考えるか。

 「日本は食糧も含めて自給率が低い国なので、そこに違った見方も必要だろう。中国依存をやめて自国に戻そうという動きが出ているのも事実だ。例えばITの世界でもすべてを中国には任せられないという動きはあるが、全部が自前主義になるとは思っていない。化学の場合はとくに国内を中心に動いている会社があるので、国内のサプライチェーンはそう簡単には崩れない。反対に海外のサプライチェーンはある程度脆弱な部分は避けられない」

 「“ジャパンファースト”のようにはなり得ない。日本は資源を持たない国だからバランスを取った動きになる。サプライチェーンを多様化することで供給不安を起こさないことが大事。今に始まったことではなく、過
去からの永遠の課題だ」

●…具体的には。

 「多様化するのは原料の調達。私もかつて購買を担当していたが、そのときから一つの国に頼らず最低2カ国以上から買うようにしている。販売も、中国一辺倒ではなくいろいろな国へ販売することが安定化につながる。ただ、当社製品の原料をみると1社購買が案外ある。複数購買にして、調達した原料を努力しながら使いこなすこともその会社の技術。それを向上させることも重要だ」

●…クロルアルカリチェーン拡大構想について、考え方に変化は。

 「アジアにおけるクロアリをどうしていくか常日頃から考えており、腹案はいろいろ考えている」

 「コストが合う国と合わない国がある。今後をみていく場合、市況が落ちるのであればプラントコストも下がる可能性がある。だからチャンスはゼロではない」(聞き手=佐藤豊編集局長)

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