世界に流行が広がった新型コロナウイルスは、医薬品製造のサプライチェーンを途絶えさせ始めた。とりわけ特許の切れた医薬品は原薬の製造を海外に依存し、流行が長引けばより影響が大きくなる恐れがある。現況と対処策について、医薬品原料商社、藤川の藤川伊知郎社長に聞いた。

■新型コロナウイルスは医薬品原料の流通にどのような影響を与えていますか。

 「一番大きい問題は世界的な物流の遮断だ。原薬・中間体などの医薬品原料は通常、旅客機の貨物として輸送されることが多い。旅客便が急減したため輸送能力が一気に減少した。平時では、中国から日本に1~2日で届いたが、現在は1~2週間かかる。インドの空港には順番待ちの貨物がとどまっている。現地工場が稼働していても日本まで運べないという状況が続いている」

 「中間体や原薬、製剤などサプライチェーンのそれぞれで在庫を備えていることから医薬品の欠品に発展していないものの、一部の医薬品は出荷調整が始まった。空輸ルートが制限されていることから、輸入の前倒しや、日本国内にある原料を早めに確保する動きもでてきた」

■供給網の遮断が長期化した場合、どのような問題が考えられますか。

 「こうした状況が続くのが1~2カ月程度であれば何とか乗り切れそうだ。ただ、それ以上となると医薬品の供給が停滞する事態も考えられ、6~7月ごろには出荷調整の品目が増えるなど厳しい局面に陥る恐れもある。仮にインドの都市封鎖が完全に解除されても、数カ月分の滞留している貨物がはけるまでに時間がかかり、来年以降も影響は残るだろう」

■現段階で手を打てることは何でしょう。

 「新型コロナウイルスは世界に影響が広がり、代替先を探すのも難しそうだ。欠品リスクを回避するために、特例的な措置を行政側と相談する必要がでてくるかもしれない」

■新型コロナの問題を受けて、在庫の持ち方が変わるでしょうか。

 「在庫をより長期にすることも考えられるが、有効期限の短い医薬品、服用量の多い生活習慣病薬などは長期間の在庫を持ちにくい。日本製薬団体連合会が導入した『医療用医薬品供給調整スキーム』が解決法のひとつになるかもしれない。IT技術も活用し、各社の在庫状況を共有できれば、業界全体で効率的に対応でき、医療機関や薬局の混乱を回避できる」

■原薬の国産化の重要性が指摘されています。

 「優先度の高い必須医薬品などの原薬は国内と海外の両方に供給元を確保する必要はあるだろう。国産だから割高にはなるが、国内企業が協力して工場を融通しあい、一元的に量産できればそこそこの競争力を確保できるはずだ」

 「製薬会社よりも、上流の原料メーカーほど経済原則が強く働く。GMPの要求レベルが引き上がり、品質管理のためのコストは増える傾向だ。間違いのない品質の医薬品を製造していくためには、その負担を薬価に反映させる仕組みもあわせて考えるべきだ」

■アフター・コロナの医薬品供給はどう変化するでしょうか。

「今回のような世界的に物流が止まるという事態には『在庫を備えておく』という昔ながらの対策が有効と感じる。官民の関係者がチームで対応する仕組みも重要だ。今回の問題で原薬にも目が向き、原薬の確保も国の安全保障であるという認識が広まれば、品質管理などのコスト増にも理解を得られるようになるかもしれない」(聞き手=赤羽環希、三枝寿一)

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