新型コロナウイルスの影響を受けるディスプレイ業界。需給や開発案件は今後どうなるのか。また、材料メーカーは何に気をつけるべきか。ディスプレイ・サプライチェーン・コンサルタンツ(DSCC)の田村喜男アジア代表に話を聞いた。

■ディスプレイ業界はどうなりますか。

 「都市封鎖による販売店の閉鎖と景気後退で需要が急減しており、2020年の液晶テレビ市場は前年比10%減と予想する。当初予想の同2%増から大きく落ち込む。有機EL(エレクトロルミネッセンス)テレビは同40%増を予想していたが、同27%増にとどまるとみる。欧米市場でコロナの影響が収束すると仮定した場合の予想であり、影響が長期化すればシナリオは変わってくる」

■長期化した場合は。

 「液晶テレビ市場の10%減はベースラインで、仮に都市封鎖が全世界に広がり、影響が年末まで及ぶようであれば15%減以上にマイナス幅が広がる。他方、早期に都市封鎖が解除されたとしても、企業の売り上げ減や株価減少にともなう個人収入・資産の減少が響き、10%減は避けられないだろう。足元では、テレワークや自宅学習でノートPCやタブレットのニーズが拡大しているが、液晶市場全体の供給過剰緩和にはつながらない」

■パネルメーカーの動向はいかがですか。

 「新型コロナの影響で一時的な工場の稼働率低下、サプライチェーンの混乱はあったが、4月でもテレビ用パネル工場は世界で87%もの稼働を維持している。第1四半期からの実需減でセットおよびパネル在庫が積み上がってきており、5月にも稼働調整が本格化する見込みだ。韓国勢が4月から稼働調整を開始したが、中国勢もBOEなどが5月から稼働調整に入る模様だ。6月の世界稼働率は80%を割り込む水準まで下がるだろう」

■新型コロナで韓国対中国の構図はどうなるか。

 「中国勢の積極投資によって供給過剰、低価格化が進行し、韓国勢は液晶生産のダウンサイジングをせざるを得ない状況に持ち込まれていた。コロナの影響が、韓国勢をさらに追い込む格好となった。テレビ向け液晶パネルの韓国生産は、サムスンディスプレイが20年内の撤退を表明、LGディスプレイも21年末までに生産撤退の可能性があるようだ。韓国の生産能力は20年世界能力の14%を占めており、これらの減少分を中国勢が能力増強で補っていく。しかし今後、中国政府の補助金がなくなる液晶パネルは、21年から需給タイトが継続することになる。中国の生産シェアは22年に75%以上に達し、中国勢がこの市場を大きく支配することになる」

■スマートフォン市場はいかがですか。

 「有機ELスマホの予想は同26%増から同11%増に下げた。液晶スマホは同18%減から同19%減に若干落ち込むとみる。有機ELスマホが大きく影響を受けるのは、有機EL比率の高いサムスン、ファーウェイが欧米、中国市場の需要低迷で苦戦しているからだ」

■日系材料メーカーはどのような対策が必要か。

 「回復しつつある中国市場に対し、欧米市場で都市封鎖が続く現状は、中国市場に強いブランドおよびデバイスメーカーに有利だ。影響が深刻化し、勝ち組負け組が出てくると、企業買収や技術買収といった合従連衡に発展する可能性がある。テレビ用液晶パネルに関しては、韓国勢の生産撤退で生じた不足分が、中国勢にどのように配分されるか。どのサプライチェーンにつくべきか、より慎重な判断が求められる」

■日系材料メーカーが取り組む次世代ディスプレイ開発への影響は。

 「コロナウイルスは需要面に響くが、量子ドット(QD)ディスプレイや塗布型有機EL、フォルダブル有機ELなどの開発案件にはほとんど影響しない。懸念があるとすれば、苦しい状況下でもデバイスメーカーの開発費がショートせず、体力が持つかどうかだ」

 「コロナの影響にかかわらず、ディスプレイの進化はめざましく、モジュールや材料変更に注視する必要がある。サムスンのフォルダブル有機ELは、反射防止機能を円偏光板からカラーフィルターに変更。カバーウィンドウは透明ポリイミド(PI)フィルムから超薄型ガラスにトレンドが移る。関連するフィルムや材料の転換も進むとみられ、コロナ収束後を見据えた活動も重要となる」(聞き手=小谷賢吾)

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