米モデルナ・セラピューティクスが、新型コロナウイルスのワクチン開発に乗り出すと発表して注目を集めている。鶏卵を使う一般的な不活化ワクチンと異なり、メッセンジャーRNA(mRNA)を使うため迅速につくれるという。mRNAは『たんぱく質を作れ』というDNAからの情報を伝達するRNAで、ワクチン以外にもさまざまな医療応用が期待される。東京医科歯科大学の位髙啓史教授に聞いた。

◆…モデルナの発表をどうみますか。

 「非常に有望だと思う。mRNAに着目した『mRNA医薬』は2つに大別できる。ひとつが有益なたんぱく質を発現させる『治療用mRNA』、もうひとつがモデルナの手がける『mRNAワクチン』だ。抗原となるたんぱく質をmRNAで発現させ、それに対応した抗体が体内で産出されるよう促すというもの。実用化は治療用よりワクチンの方が早いはずだ」

◆…それはなぜでしょう。

 「治療用の場合、特定の場所までmRNAを送達しなければならない。一方、ワクチンは、簡単にいえば体のどこかに入りさえすればよいからだ。またウイルスのゲノム情報が分かればmRNAワクチンの設計は難しくない。生産も短時間かつ低コストで可能になる。実際、まだ承認にいたったものはないが、mRNA医薬を手がけるベンチャーを見渡すとワクチンの方が先行している。その一社がモデルナだ」

◆…他のmRNA医薬ベンチャーについて教えてください。

 「モデルナと並んで有名なのが独ビオンテックと独キュアバックだろう。ビオンテックは高水準の論文を頻繁に発表しており注目される。モデルナはワクチンだけでなく治療用mRNAにも積極的だ。血管をつくる『VEGF』をmRNAで発現させて心筋虚血を治療するという、モデルナと英アストラゼネカの取り組みも興味深い」

◆…mRNA医薬はsiRNAやアンチセンス核酸を使う核酸医薬の一種といえるでしょうか。

 「遺伝情報の伝達に介入し、有害なたんぱく質の発現を防ぐのが大半の核酸医薬。これに対してmRNA医薬は目的のたんぱく質を発現させる。作用機序としては真逆で、この点に着目すればmRN医薬は遺伝子治療に近いともいえる。だが核酸医薬もmRNA医薬も、核酸を使う点は同じ。そして核酸は体内で分解されやすいため、薬物送達システム(DDS)が重要になる」

◆…米アルナイラムのsiRNA薬「オンパットロ」など、核酸医薬のDDSは脂質ナノ粒子(LNP)が主流です。

 「たしかに大半の研究者がLNPを使っているようだが、LNPには肝毒性の問題が指摘される。私は片岡一則先生らとともに、ポリマーを使った高分子ミセルに注目している。ただ、将来はLNPかミセルかの二者択一ではなく、疾患の性質などに応じて使い分けることになるのではないか」(聞き手=濱田一智)

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