タカラバイオや東ソー、東洋紡など企業各社が新型コロナウイルス感染症の遺伝子検査薬を相次ぎ増産する。感染力の強い変異株の流行を受け、政府は現状1日20万回のPCR検査能力を倍増する方針を打ち出し、感染者や濃厚接触者に加えて陰性確認などにも検査需要が広がる。こうした特需が各社のコロナ関連事業を潤す一方、不安材料も。検査薬を作る一部の設備は調達困難に陥り、半導体不足は検査装置の増産の足かせになる懸念が出ている。

 コロナPCR検査薬の増産幅が大きいのはタカラバイオ。同社は現状、月産500万テスト分を供給でき、今夏以降は同1200万分に拡大する。政府補助金も活用し、滋賀県内の本社事業所で製造設備を整える。東洋紡は50万テスト分から100万分に倍増し、シスメックスは神戸市内の工場で現状に比べて5倍の100万テスト分を量産できる製造体制を確保した。島津製作所は60万テスト分を供給する。

 東ソーは独自の遺伝子検査技術「TRC法」を手がけ、PCRと同じように使える。コロナ検査薬を製造するグループの東ソーハイテック福川工場(山口県周南市)はフル生産が続いており、今夏に現状比30%の増産を計画する。栄研化学も栃木県内の工場で、独自技術「LAMP法」を用いるコロナ検査薬を100万テスト分量産できるようにした。

 <陰性確認需要も>

 厚生労働省によると、現状のPCR検査能力は1日約20万回。5月14日の専門家会議では通常時で最大約36万回、緊急時で最大約45万回に能力を拡大する方針を示した。感染力の強い変異株が流行するなか、職場や学校などでのクラスター感染をいち早く捉える検査体制が急務のためだ。東京五輪など海外との往来増を見据え、陰性確認など感染者や接触者以外の利用も広がる見通し。

 各社のコロナ検査関連事業は2020年度に顕在化し、全体の業績を牽引。島津製作所とタカラバイオの関連売上高はそれぞれ130億円台を計上し、栄研化学の遺伝子関連は約63億円と約5倍に拡大した。21年度は、前半は好調を持続し、後半は需要が一巡するとの慎重な見方が多いが、変異株の流行拡大など感染状況次第で「20年度並みに推移する可能性もある」(栄研化学の和田守史社長)。

 <原料調達に課題>

 一方で複数の不安材料が浮上する。その一つが検査薬の増産がスムーズに進まないリスクがあること。東洋紡の竹内郁夫社長は「検査薬を製造するための一部の設備が調達できない」と危機感を強める。同社は月産100万テスト分以上に増産したい考えだが、設備の調達が障壁となっている。栄研化学はフル生産するには、「需要に見合う原料の見直しが必要」(和田社長)と話し、原料調達の課題解消が増産の前提になる。

 もう一つの懸念が半導体不足だ。PCRなどの検査装置には汎用半導体が使われ、減産方針が相次ぐ自動車と同じ環境に陥りかねない。実際に、全自動検査装置を手がけるミズホメディーの唐川文成社長は「半導体不足が影響している」とし、大規模に増産しにくい状況にあることを明かす。栄研化学も遺伝子検査装置の生産委託先で、部品調達が滞っている。

 コロナ向け以外にも幅広く計測機器を展開する島津製作所の上田輝久社長は半導体不足について「ある程度の影響は予測している。4~6月にさらに緻密な生産計画を練る」と話す。流通在庫を減らしたり、急を要するコロナ向け装置の生産が滞ったりしないような工夫が検討課題に挙がる。シスメックスは調達先と長期の生産計画を共有して在庫を積み増すほか、リスクヘッジのための代替品の確認などに取り組む。

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