新型コロナウイルス感染症向けに、一から研究開発した「コロナ新薬」の治験が日本で始まる。英アストラゼネカが抗体医薬の国際治験に日本を近く組み入れるほか、武田薬品工業は免疫グロブリン製剤の治験を進めている。ただし、接種1回が数千円のワクチン接種が始まるなか、1回投与が数十万円にのぼることもある抗体医薬の出番は減るかもしれない。量産しやすい低分子化合物では米メルクの日本法人が国際治験に参加する準備に入り、日本のベンチャーも開発に参入する。

 アストラゼネカが日本で近く治験を始めるのは抗体医薬「AZD7442」(開発番号)。コロナ回復患者から採取した回復期血漿に由来する複数の抗体を組み合わせた。治験は第3相臨床試験で、入院を必要としない患者に投与し、有効性や安全性を確認する。抗体関連では、武田薬品も回復者の血漿から精製した高濃度の抗体を含有する免疫グロブリン製剤の国内治験を始めている。

 米国ではすでに複数の抗体治療が緊急使用許可(EUA)を受けている。このうち、米イーライリリーの抗体医薬「バミラニビマブ」単独と、同剤と同「エテセビマブ」の併用療法の日本での開発は「当局との協議を含めて検討中」(イーライリリー日本法人)にとどまる。米リジェネロン・ファーマシューティカルズの同「カシリビマブ」「イムデビマブ」によるカクテル療法の日本の権利を持つ中外製薬は「日本開発の詳細は検討中」という段階だ。

 有効性の高いワクチンが登場したいま、抗体医薬はその存在価値を問われていく局面にある。ワクチンは接種回数で億単位に量産でき、1回の接種は2000円程度。多くて数百万人単位の生産の抗体医薬は数万~数十万円にのぼる。カクテル療法にして抗体を複数使えば、その分、薬価は高額になり、投薬対象に制限がかかるかもしれない。米独両政府はコロナ抗体医薬を買い上げし、適正使用を進める。

 変異株も悩ましい材料だ。抗体が結合するウイルス部位が変異すれば効果を最大限に発揮できず、実際、効果が弱まっているとの研究報告が増えてきた。そこで米アディマブ社は、変異株やSARSを含めたコロナウイルス全般に共通する部位に結合する抗体医薬「ADG-2」を開発。抗体の研究開発に詳しい東京理科大学の千葉丈名誉教授は「あらゆる変異株に対応できる可能性がある」と話す一方、「製薬会社は同じ標的をワクチン開発に応用する」と指摘する。「万能ワクチン」が実現すれば抗体の出番は減る。

 感染症に対して抗体医薬があまり実用化されてこなかったのは、こうしたワクチンとの競合が背景にある。一方で新型コロナが存在する以上、治療薬はいる。そこで注目されているのが、量産によってコスト低減を図りやすい低分子化合物だ。経口薬にできる利点もある。日本では、富士フイルム富山化学のインフルエンザ治療薬「アビガン」の転用が期待されるが、厚生労働省は同社の承認申請を「継続審議」としている。

 低分子を用いたコロナ新薬の開発で先行するのが米メルク。アビガンと同じRNAポリメラーゼ阻害作用を持つ経口剤「モルヌピラビル」の第2・3相の国際治験が進行中で、メルクの日本法人によると、「日本も国際治験に参画する準備を進めている」。これに続くのが、米アテアのRNAポリメラーゼ阻害剤「AT-527」で、日本の権利を持つ中外製薬は「日本開発の詳細を検討中」としている。

 「『タミフル』のような薬にしたい」。こう話すのはオンコリスバイオファーマの浦田泰夫社長。コロナ薬として特例承認された米ギリアド・サイエンシズの「レムデシビル」の抗ウイルス効果に匹敵する新薬候補「OBPー2011」を創製した。点滴投与するレムデシビルと異なり、投薬しやすい経口剤として開発する。目標は22年の治験申請としており、先行企業との差をいかに縮めるかが今後の課題となりそうだ。

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